91.微かな希望 --------------------



和田は森を走る。由伸に向けて混乱していたとはいえ
いとも簡単に何発も発砲した自分に対して逃げるように。
仲間のいる由伸と違い、最も信頼する者に見捨てられた自分。

「…自分のケリを自分でちゃんとつける事ができたら…」
もしかしたら城島は考え直してくれるかもしれない。
仲間として再び受け入れてもらえるかもしれない…
それは極めて可能性の低い、微かな希望。

(でも、でも…だからって由伸さんを殺すなんて…)
あの時は怒りと混乱のために、考え無しに発砲してしまったが
やはり誰かを殺すなど…和田は足を止める。
どんな手を使っても城島に受け入れてもらいたい、
だけど誰かを犠牲にできない。そんな葛藤で苦しげに眉をひそめた時である。

「だから次元の帽子は4歳のオスアザラシの腹の皮という決まりなんですよ。」
「んなこと知るかいな。お前、変やで?」
先ほど走った地点とまったく同じルートを歩いて来たのは…由伸と宮本であった。
「不二子のスリーサイズ並にこんなの常識ですよ。」
「え?いくつなんや??」
「…なんでそこだけ食いつくんですか。」
先ほどの事などなかったかのように、十年来の相棒さながら、
こんな場でも他愛の無い会話で盛り上がる2人の姿に、和田の憎悪の念が再び蘇る。
(相棒との会話はさぞ楽しいんでしょうね…)
木陰に隠れながら、和田は瞳をぎらつかせる。
(ああそうだ…こいつらを仕留めれば…城島さんは…)
自分を見直してくれるかもしれない。ならばこいつらを仕留めればいい。
嫉妬、羨望、憎悪に流されるように、和田は銃を構える。対象は決まってた。
自分が清水を狙撃したことを知っている由伸、
大事な者に突き放された自分とは大違いの由伸…狙うは彼だ。

「…和田は…どこ行ったんでしょう。」
瞳を曇らせ、ぼそりとつぶやく由伸に、和田は思わず手を止める。
「気になるんか?お前に発砲しまくったのに。」
「そりゃあね…たしなめるつもりが結果ああですから…」
由伸の言葉に和田は再度逆上する。
(余裕のお言葉ってわけですか…)
もう迷う必要もない。和田はゆっくり引き金に指をかける。
「あいつは…仲間を殺すなんて、そんなことできる奴じゃないんです。」
指に力を込めた瞬間に聞こえた由伸の言葉。そんなことできる奴じゃない…
その言葉に激しい動揺を感じたせいか、引き金を引く指が揺れ動く。

パンッ…

乾いた銃声音。最後の弾丸は宮本をぎりぎりかわし、後の木に埋め込まれた。
「!なっ…」
指が揺れ動いたせいか、狙いは大きく外れた。
「お、お前、影から狙ったのか…」
硝煙の臭いが強い方向の茂みで呆然と銃を構えたままの和田を発見するなり、
由伸は信じられないと目を見開く。
違う。言いかけた和田は言葉を飲み込む。
違う?狙ったのは宮本さんじゃなくて、あんただと言えというのか?
和田は虚ろな視線を由伸に送ると、弾丸が空となった銃を向け直す。
「くそっ!くそっ…」
和田はもはや混乱のみに支配されるように、何度も引き金を引くが、
カチカチと音が鳴るだけである。そこで始めて弾倉が空なのに気がつくと、
さっと青ざめ、由伸を見ると…
「う、うわあああっ!」
和田は聞き取りにくい奇声をあげると、
まるで子供そのものに手を振り回しながら由伸を押しのけ、一目散にその場から逃げ去った。
「あいつ本当に…」
和田を呆然と見送ると、由伸はどうしても信じたくないと俯く。
「…冷静に狙い撃ち考えた奴の行動とも思えんけど…
影から俺らに自分の意志で発砲したのは事実や。」
残酷なまでに正直な宮本も感想に、由伸はさらにうなだれる。
「せやけどそれでも信じるというなら…とことん信じればええよ。
危ない目に合うたから、疑り深くなることが一概に正しいと言えんやろ。」
「宮本さん…」
宮本は本当にどんな状況でも冷静さと、度量の大きさを兼ね備えている。
由伸は感嘆するようにつぶやいた。
「で、どうしたいんや?ここはお前にまかせるわ。」
「…あいつをさらに追いつめたのは俺だから…」
「やってもうた事の責任をとりたいわけやな。お前らしくてええんやないの?」
あくまで悠長に笑う宮本に、由伸も元気付けられるように笑い返す。
「とはいえ…どうしようかまでは考えてないんですけどね。」
ただ混乱を抑え、誤解をとき、お前は悪くないと分からせたいだけだった。
「随分と長くこの森に居る気がすんなぁ…」
由伸と宮本は疲れたようにため息をつくのであった。

【由伸・宮本C-2  和田 D-2へ移動】




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