88.道程遠く --------------------



決して上手くはない鼻歌まじりで岩瀬は地図を上に下にしながら歩いている。
順調な道程のように見えたが内心は焦っていた。

(…ここはどこだ…?)
どこを見ても木ばかりで目印になるものが何一つない。岩瀬は完全に道に迷っていた。
日が落ちる前に灯台へとなるべく進もうと思っていたのだがこのままでは思い通りの時間配分では進めないだろう。
山を通るルートは失敗だった、と岩瀬は自分で自分を責めるが、今更のことだ。
無線で自分の位置を知らせてもらうことも考えてはみたが自分の行動が誰かにバレる恐れ、
それに無駄な無線の使用はきっとあの恐い声で叱られる…それだけは避けたい。
結局、正確な道がわかることはなく岩瀬はただ前へ前へと進んでいた。

「な、なんかここ、さっき通ったような…。方角はあってるよな、たぶん…」
自信のない独り言を呟いた時、岩瀬の首輪から岩瀬にしか聞こえない小さな電子音が数秒発せられた。
(誰かいる!?)
首輪からの電子音は敵の存在を知らせる合図。
よく目をこらし周りを見回してみるとそこまで遠い位置にはいないだろう、薄らと見える一人の影。
(誰だろう…。一人かな…?)
ただでさえ迷っているのに回り道はしたくない、
そう判断した岩瀬は気配を悟られぬようその人影の後ろを通り過ぎようとする。
慎重に一歩、また一歩…。

ガサリ。

(…しまった…。)
慎重にいっていたつもりだったが岩瀬はつい物音を立ててしまった。
音のせいか相手もこちらの存在に気付いたようでゆっくりと向かってくる様子を見せている。
(こうなったら!)
覚悟を決めると、岩瀬は急いでフライパンを取り出して自ら相手に近づき思いっきり殴り付けた。

「ギャッ!?」

フライパンは顔面に直撃したようで相手は軽い悲鳴をあげ、しりもちをついている。
「ご…、ごめんなさいー!」
相手の隙を得た岩瀬はなぜか大声で謝りながら先の道へと逃げるように進んでいった。


不意をつかれ、岩瀬のフライパンによって殴られた顔面を抑えながら福留はむくりと立ち上がる。
「すげー痛ぇ…。あれはもしかして岩瀬さんの声か…?」
急いで後を追おうとしたが既に岩瀬の姿は見えなくなっていた。
深追いは自分も危険に陥る可能性もあるかもしれない、福留はそれ以上岩瀬を追うことはなかった。
そして福留はまた獲物を待つ態勢に入る。
逃がした獲物の大きさに気付くことはなく。

【現在地 岩瀬B-6、福留C-6】




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