84.灯台へ --------------------



「…わかりました…僕は、そちら側に協力させていただきます。」

長い沈黙の後に岩瀬が了承すると、星野は満足そうに話を再開する。
「じゃあ、まずは地図を見ろ。A−1にある灯台に武器を入れた箱を隠してある。」
岩瀬は星野に従い、鞄から地図を取り出す。ここからだと灯台は直線距離にして4キロ程。
だが湖と川がある為に実際はもっと歩かなければならない。岩瀬は小さく舌打ちする。
「…随分、遠い所に武器あるんですね。」
上陸直後なら近かった。協力を求めるんならもっと早く言ってほしいものだ。
心の中で毒づく岩瀬の心情を察したかのように、星野が厳しい声で答える。
「こっちも弱い奴に武器を支給したくないからな。文句を言うな。
 そこに着くまでに死ぬような奴に、武器を持たせても意味無いやろ?」
なるほど、そういう事か。岩瀬は星野…及び主催者側の意図を理解した。
自分も参加者の一人だ。そう簡単に強力な武器や命の保障を与えられるはずが無い。
これも向こうにとっては余興の一つ…お遊びに過ぎないのだ。
自分は都合の良い手駒。死んだら「しょうがないなぁ」の一言で済まされる、手駒だ。
だが手駒になる事で生き残る可能性が高くなったのは事実。文句を言うつもりはない。
(でも協力求めるんだったら、もう少しまともな武器入れてほしいなぁ…。)
バッグの中に突っ込んだフライパンを呆れたように見やるものの、やはり声にはださない。
言えば無線越しに怒鳴りつけられる。そんな予感がした。
「…武器、僕が行く前に先に誰かにとられたりしませんかね?」
「隠してあると言っただろう。見つかる可能性は低いし、箱には鍵もかけてある。
 鍵はお前が持っとる。鞄を開ける時に鍵を使ったろ?それや。」
「…わかりました。ところで…命の保障というのは?」
「こちらがお前の周りに人…もしくは危険が迫っていると判断した時、首輪から音を鳴らす。
 数Mも離れていたら聞こえない位小さな音だ。本来、爆発前の警告の為に鳴らすんだが…。」
それだけ?と言おうとする岩瀬の声を遮ぎるように、星野が続ける。
「これ以上の話は灯台についた後や。まずは灯台に行け。早よ行かんと日が暮れるぞ。」
無機質な電子音と共に星野の声が途切れた。もう灯台に着くまでかかってくる事はないだろう。
無線で会話する姿を、万が一にでも他の誰かに見られたりしようものなら…。
それを考えると、自分の方から無線をかける事も極力控えなくてはならない。

(…まさに「一球が命取り」ってやつか…。)

一つの判断、行動が命取りになる。それは、岩瀬が試合の中でいつも経験している事。
岩瀬はフライパンを取り出した後、無線と地図を鞄にしまうと小さなため息をついた。
フライパンだけでは誰かと交戦する事になった際、圧倒的に不利だ。
灯台に着くまで、誰かと遭遇するのは極力避けたい。多少時間がかかったとしても。
幸い、人や危険が迫れば首輪が知らせてくれる。寝首をかかれる可能性は低い。
(さてと、どうするかな…。)
岩瀬は空を見上げる。日はまだ暮れそうにないが、今の季節、日が暮れるのは早い。
星野は早く行けと言ったが、大半の選手が眠りにつくであろう深夜までここで待つのも手だ。

だが。

「追い詰められる立場には、飽きてたんだよね…。」
岩瀬は誰に言うでもなく呟いた。
目指すべきは灯台。そこには、自分の立場を変える武器がある。

「追い詰める立場か…結構、楽しそうだな…。」

岩瀬は薄気味悪い笑みを浮かべつつ、フライパンを片手に鞄を担いで立ち上がった。

【岩瀬 E−6】




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