83.荒地の花 --------------------



「なんや…誰もおらへんな。」
G-4地点に入った上原は、不気味なほど静まり返った集落を眺める。
だが、学校の校門前にちらりと見えた人影に、さっと角に身を隠した。
「んだよ、結局無駄足かよ…」
ぶつくさと文句を言いながら出てきたのは松坂であった。
「……」
上原にとって邪魔者の一人である松坂。同じメジャーを志す松坂の出現に、
どろどろとした高揚感が沸き上がる。
(待てよ…てっきりヤル気になっとると思っとったけど…)
松坂の様子は憤慨しているものの、目的の為にゲームに乗ったようではなさそうだ。
それは上原を困惑させる。
(あいつかてメジャーに行きたいんやないのか?)
そのために、誰であろうが殺しまくるという気は無いのか…
自分と同じ目標な筈なのに、その意志は異なる…
それは上原を困惑から薄暗い憎悪へと変貌させた。
(ああそうか、お前もあいつと同じ人種やからな…)
あいつ…高橋由伸と同じ、常に脚光を浴び、惨めな思いを
したこともない、王道を歩んで来た者だ。
だからこの期に及んでも汚れ無き王道を歩もうとするのだ。
(…決まりや。)
この若き獅子を、己の手で血で染め上げる。
来るべき由伸との戦いへのウォーミングアップとしてこいつを…
上原は顔を上げ、切羽詰まった表情を作り、松坂に駆け寄った。
「…!上原さん!」
血相を変え、近寄ってきた上原に、松坂は目を見開く。
「やっと誰かに会えたわ…銃声が聞こえるし、こんな武器しかないし、もう怖くて死にそうやったわ…」
心底から安堵する表情、差しだす鎌…自分でも見事だと
自画自賛できるほどの名演技である。

「既に簡単にヤル気になった奴がいるんですよね。ったく、何考えてんだよ。」
何の疑いもなく、松坂は上原に応じる。上原はあえてしんみり
頷くと、松坂を注意深く伺った。
(武器は…ポケットの中か?)
松坂の手には何も無い。だが、ポケットに楕円形の物体が
入っているのが分かる。
「なあ、これも何かの縁や。一緒に行動せえへん? 正直、一人はしんどいんや…」
俺って俳優の才能あるんやな…心中で苦笑しながら上原は言う。
「そうですね…」
仲間は必要だ。だが、何故か知らないが気が引ける。
上原は一人では辛いと頼って来ている。なのに何故か躊躇してしまう。
「一緒に行きましょう。で、一人でも多くの人達にゲームを潰してやろうと呼びかけましょう。」
だが己の躊躇を振り払うように、松坂は決断の言葉を発する。
「そうやね。こんなゲーム、みんなで潰したろうや。」
それが出来れば苦労ないだろう、と心中で嘲笑いながら
松坂が乗ってきた事に微かに高揚で身を震わせた。
(こいつも所詮、由伸と同じ、温室育ちにすぎんのや。)
雑草ほどしぶとくもなく、綺麗な場所でしか生きられない。
それはこのような荒地で咲き誇る事などできないという意味だ。
(俺の…勝ちやな。)
後は隙を見てこいつで寝首を掻けば良い…上原は静かに光る鎌を
持つ手に見えない程度の力を込めた。
「……」
そんな上原を松坂はまだ躊躇するように、伺うように眺めるのであった。

【上原・松坂 G-4】




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