80.疑心暗鬼を生ず --------------------



息が荒い。
今も尚、胸からの流血は止まる気配はない。
「…少し寝かせてくれ」
木村は誰かに伝えるかのように呟いた。
どのくらい歩いただろうか。いつのまにか木の茂るこの場所に辿り着いていた。
近くの勝手のいい木に寄り掛かり息を整える。

自ら傷つけた箇所は相変わらず出血が止まることはない。だんだんと眠気も感じてきてもいる。
その本能に逆らうことなく静かに目を閉じようとした時、木村の目の前を何かが通り過ぎた。

「黒田…!」
その姿は一瞬ではあったが黒田と判断することができた。
すぐに追い掛けようとするが怪我のせいで足が思い通りに動かない。

「…くろだぁーーー!」

思わず自分の残りの力を振り絞り黒田の名前を呼ぶ。
何故わざわざ引き止めようとしたのだろう。その理由は木村自身もわからない。ただ無意識のうちに叫んでいた。
声に気付いたのか黒田の動きが止まり、こちらに向かってくる様子を見せる。
木村もおぼつかない足取りで黒田に近づいていった。

「黒田…」
「き、木村さん…。どうしたんですか…?」
「助、け、て…」
木村はそう呟き黒田の肩に寄り掛かかった。その体は力なく黒田の支えがなけれはすぐに倒れてしまいそうだった。
ようやく誰かと今、出会えることができた。孤独に潰されそうになっていた木村は久しぶりに多くの安堵を感じた。

「その傷は…」
「大丈夫、軽傷だから…」
「そうは見えへんですよ。何があったんですか」
黒田は胸の傷を覗き込む。
そしてそっと木村をその場に座らせ何か傷を癒せるものはないかとバックの中を捜し始めた。
一緒に木村もそのバックに目をやる。
バックの中には大抵は自分と同じ物。
地図、水、食料に

ボウガン。

人を殺すことのできる武器。

(……まさか黒田も!)

木村は怪我人とは思えない素早さで即座に黒田から間合いをとる。
「どうしたんです…?木村さん…?」
黒田も木村の急に見せた俊敏な動きに戸惑いを見せる。
「…お前の…その武器はなんだ…。」
「え…。」
「それで何するつもりだ!」
そう言うと木村は突然、隠し持っていたナイフで黒田に切りかかった。
そのナイフは空を切り、近くの木の皮を削げ落とす。

「黒田ぁ!」
もう一度態勢を整え再びナイフで切りかかる。
しかしナイフを持った木村の腕は黒田の手によって強く掴まれた。
「はなせっ!何をするんだ!」
「やめてください!何でそんなことをするんですか!」
「わかっているだろ!殺し合いなんだぞ!」
「……木村さんまで…。みんなどうしちゃったんですか…」
「くろ…だ……」
気付くと目の前の黒田は泣いていた。
大粒の涙を流し泣いていた。

「殺し合いなんて…やめましょうや…。木村さん…」
「ふ、ふざけるな!この状況で人を信じるなんて…」
「木村さん…」

いつもとはまるで違う黒田の姿に混乱する。
慌てて掴まれていた腕を振り払い、荷物をまとめ泣き崩れる黒田を背中に木村は走り去った。
走り去るも黒田の哀しげな声が頭に残っていた。

【木村・黒田 F-1 木村はF-1から移動】




戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送