70.縄張りの隙 --------------------
安藤優也は集落の中にある一軒に入ると、鍵をかけた。
「よっしゃ、これで一応安心や。」
自分からしてみれば、こんなばかげたゲームにのるつもりは毛頭ないし、他人を殺すのは最後の手段としたい。
だから、船から下りて道をまっすぐ走ったとき、行く手に家があるのを見て内心小躍りしそうになった。
家の中に入って、中から鍵を掛けてしまえば誰も入ってこられないのではないか?
禁止エリア・・・とか放送では言ってたけれど、それに引っかかるまではここに居れば安全だろう。
それに、こういうところで食料や水なんかも調達できればそれに越したことはない。
唯一の心配事は集落の家々に入れないかもしれないという事態だったが、それは杞憂だったようだ。
「家に篭ってちゃあかんって誰も言うとらんし、誰も入ってこなきゃ殺られるようなこともないやろ。」
安藤は家の中を一通り見て回ることにした。
とりあえず蛇口をひねってみたものの、水は出てこなかった。
台所の戸棚の中には、この家に住んでいた者がおいていったのであろう缶詰が積まれている。
さらに戸棚を探すと、缶切やワインオープナー、果物ナイフまで引き出しから出てきた。
ガスコンロがとりあえず使えることまで確認したあと、彼は二階に上がった。
2階の部屋の押入れには布団が2組収まっていた。
据え付けられていた小さな洋服箪笥からはTシャツやパーカーが出てくる。
「誰が住んどったんやろ・・・?」
まるで、それまで人が住んでいたのが人だけ抜け落ちたかのような、そんな感覚。
その最中に、殺し合いをしなければならない自分たち。
でも、その輪からはとりあえず一つ離れたところに今自分は居る。
「布団もあるし、しばらくここに居てもええな。」
安藤は二階の窓を開けた。一気に新鮮な空気が部屋を満たす。
窓の向こうには、学校らしき建物。周りを見回してみたが、どうやら一番大きな建物は学校らしい。
「いやぁ、快適だ・・・」
安藤は外に向かって大きく伸びをした。その瞬間、パッと目の前が紅くなった。
なにが、起こった??? 胸のあたりが猛烈に痛い・・・!
安藤が痛さと衝撃でもんどりうって後ろへ倒れ込むのと同時に、パリンという音とともに窓ガラスに穴が空いた。
狙われ・・・てる・・・? ヤバイ、どこかへ・・・逃げなきゃ・・・オレ・・・うわ、血がと・・・まら・・・ない・・・た、すけ・・・
安藤はうつぶせになって血を吐き、そのまま意識が遠くなった。
三浦大輔は校舎の三階の窓からそっと離れた。そして、深く息を吐き出す。
持っている狙撃銃のサイレンサーの口からは細く煙が昇る。床には三個の薬莢が転がっていた。
彼はスコープでしか、遠くの標的を視認することが出来ない。
そのため、二階から顔を出したら狙撃できるよう校舎の三階から二階建ての家の窓を狙っていたのだ。
うまく当たってればいいのだが、距離遠かったからな・・・。
とりあえず、狙った奴がどうなったか確認だけしにいくか。
もし生きていたとしてもケガの一つもしていればこっちのほうが有利だろうし、少なくともこっちが返り討ちにあうことはない。
三浦はそこまで考えると、校舎内で拾ったジャージと文化包丁をカバンに詰め込み立ち上がった。
【三浦大輔 現在H-4】
【安藤優也 G-4>OUT 残り22人】
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