66.究極のアホな恰好付け屋 --------------------



生い茂る森の付近の平地に宮本慎也は腰を降ろしてぐるりと辺りを見渡す。
その姿は殺し合いに強制参加させられた者とは思えないものであった。
「ええ景色や。陽奈と菜桜が喜びそうやな。」
妻とかけがえのない娘達…大事な家族は今、どうしているであろう。
こうした家族を想い、締めつけられる苦しさを味わっている選手は一体何人いるのであろう。
(大事な家族のために何がなんでも生き残る…そう思う奴もぎょうさんおるやろな。)
そのためならたとえ仲間を殺めても、と思う者もいるだろう。
だが、それを責めるつもりはなかった。

(俺には…できへんなぁ。俺みたいな奴には無理や。)
リーダーシップがある出来る人間、というイメージばかりだけでは気恥ずかしく、
エロDVDが大好きだ、などと言っておちゃらけたりする自分は、ある意味究極の恰好付け屋だろうと自負している。
(家族の元へ帰る為なら、仲間を犠牲にする…んなことできるわけない。)
名内野手、最高の繋ぎ役を徹してきた自分には、誰に押し付けるわけでもない、誇りと美学というものがある。
ここで家族の元へ、という己の利益のみで仲間を殺すなど、
今までの自分を殺す…すなわち死ぬのと一緒だとごろりと大の字にねっ転がる。

「俺は旦那として最悪だし、父親として最低やなぁ…」
愛する家族のためなら仲間をも犠牲にするしかない、と思う事ができない究極のアホな恰好付け屋や、と宮本は空を眺める。
鞄の中には銃が入っていたが、さきほどちらりと見ただけで閉じたままである。
「かといってこのまま何もせずにヤル気になった奴らにぶっ殺されるのも恰好悪すぎやしな…」
もうしばらくこうして、だらだらとねっ転がり、ぶつくさ呟いていたかったがそうもいかない。

「…さて、気ぃ引き締めなあかん。」
むくりと起き上がった宮本は、その表情を真剣そのものに変貌させる。
自ら意欲的に自分の為に仲間を殺すなど、何があってもやる気は無いが、そういった奴らにみすみす殺されるつもりもなかった。
「俺は…キャプテンや。こんなゲームにみんなが放りこまれたのは…そりゃ俺のせいやね。」
自分一人が悪いわけではないであろうが、キャプテンという立場はそういうものなのだ。
「責任、とらなあかん…このままここですんませんでしたって死ねたら楽な話しなんやけど…」
死で償えるものならいくらでも死んでやるが、それは後々いくらでも出来ることであり、今やるべきことは…
ゆっくりと立ち上がった時…パラパラという銃声が聞こえた。
「…!阿呆が…早すぎるやろ…何考えてんねん…」
もうヤル気になった者が居るのか、それとも試し撃ちか…何となくだが前者のような気がした宮本は舌打ちをする。
動揺、混乱よりまえに自分以外の全てを犠牲にしようと考える者がいる…

(誰や…誰が…)
同じ目的を持ち、戦ってきた仲間達の誰が…考えたところで分かるわけがなかった。
「…!」
ややあって今度は近くの森から別の銃声が聞こえる。
「…阿呆二人目、というわけか。」
近い場所からの銃声に、宮本は心底からやるせないように首を振った。
「行くか…」
銃声を無視するわけにはいかない。
二つの銃声…とりあえず近くの方に行こうと宮本は鞄を掴み、急いで森に向うのであった。




戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送