62.孤独 --------------------



島に着いてからだいぶ時間がたっただろうか、木村は一人砂浜にたたずみ考え込んでいた。

(・・・誰からも落ち合うみたいな指示はなかったよな・・・。誰かと上手く落ち合うことができればいいんだけど・・・。)

しかし、今このいる場所は戦場。実際に誰が発砲したのかわからないが何発かの銃声が木村の耳にも聞こえた。
その事実が混在するこの状況で信じ合えることのできる仲間などできるのだろうか・・・。
そんなことを思うとますます深く考え込んでしまう。

(・・・さすがに泳いでこの島から出るのは無理かな・・・。
仮に泳ぐことができたとしてもこの島からでたら首輪が爆発するかもしれないし・・・。)

連れてこられたボートの姿がだんだんと小さくなっていく姿を見て
目の前に広がる大きな海からこの島は周りから完全に孤立していることはわかっていた。
木村はそっと自分の首にはめられた首輪を触り、大きなため息をつく。

(俺はこれからどうすればいい。)

常に死と隣り合わせであるこの状況に大きな不安と恐怖を感じ、泣きたくなるような気分に陥る。
なぜ仲間同士の殺し合いをしなければならないのだろうか。
こんなことをして何を得ることができるというのか。
木村はおそるおそる支給されたバッグの中身を確認してみた。

「・・・ナイフ・・・。」

バッグの中には地図や食料、そして武器と思われる小型のサバイバルナイフがひとつ。
ナイフと一緒に入っていた紙は読むこともせずにすぐに捨ててしまった。
読む行為は殺し合いを認めることになるようで嫌気が差した。

ふぅ、とまた大きなため息をつきナイフの刃をじっと眺めてみる。
ナイフの刃は木村の顔をくっきりと映すほど綺麗に研かれていたが、
それを冷静に見ていると一刻も早くナイフが誰かの血でこの刃を染めて欲しいと願っているようだった。

(このナイフですべてを終わらせることもできるんだよね・・・)

自分が犠牲になればみんなが助かるという思考があったのかもしれない、それともただの現実逃避か。
理由はわからず突然に木村は自らの胸を手にしていたナイフで


一刺し、


二刺しと…。


ナイフの刃によって傷ついた木村の胸はどんどんと赤黒い血の色にじんわりと染まっていた。
自覚症状はない。
刺し傷からはとめどなく鮮血がこぼれ落ちていく。

(あ・・・。)


地面にたまってゆく血だまりではっと我に帰る。

今、自分は何をしているのだろう…。
血・・・?胸が痛い・・・!!!


「うわぁぁぁぁあああ!」


ここが戦場だということも忘れ、ありったけの声で叫ぶ。木村の孤独な心は張り裂けた。


死にたくない、死にたくない…。誰かのために命を捨てることなんて到底できない!


とにかく自分の体の安全が先だ。ふらふらとした足取りで歩きだす。
木村の体からはポタポタと血が垂れ、彼の足跡を残していった。




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