61.獅子の矜持 --------------------



松坂大輔は、怒りに燃えていた。
彼は今、海岸から続く道を、早足である場所へ向かっている。
このゲームの最中、他人を警戒している人間なら大きな道は避けるのが普通だが、松坂は少しも気にしない。
警戒という意識が入り込む余地もないくらい、彼の心はひたすら怒りに支配されていた。

自分たちの失敗の記録を見せられた。
わかりきっていたことを今更なじられた。
この寒い季節に変な島に連れてこられた。
愛妻が仕立ててくれた上等のスーツを没収された。
何もかもが気に入らない。

「こんなバカなこと、付き合ってられるか!」

不満をぶち撒けながら、ずんずん歩く。
彼は元々感情豊かな青年であるが、今は完全に怒りのメーターを振り切っていた。
昨年ようやく念願の日本一も達成して、長年の交際を実らせて結婚もした。
来年こそは心おきなく夢に見た新天地へ旅立てる。
そう思っていた矢先に、この始末。

松坂は島に降り立って早々に鞄の中身を確かめ、次に地図を見て当初の目的地を定めた。
そうするうちに、最初の銃声を聞いた。

銃声は、誰かの殺意。
かつての仲間が、同じ仲間の誰かに向けた裏切りの殺意。
その現実が、許せなかった。
その現実に、自分達を放り込んだ者達が許せなかった。

特に、あの男。
自分達の戦いを無様だと、だから殺し合えと平然と言い切った、あの男。

「何が殺し合いだ、ヤクザみてーな顔しやがって! 中身もヤクザかよっ!」

チームメイトを殺された。
殺し合いを強要された。
未来を踏みにじられた。
誇らしい夢を餌にされた。
何もかもが気に入らない。

「何がメジャーだ、ふざけやがって! そんなの自分の力で行くに決まってんだろっ!」

メジャーという言葉が出た時、何人かの視線が自分に来たことを覚えている。
計るような視線。疑うような視線。もっとあからさまな、敵意を含んだ視線。
心外極まりなかった。
自分の夢は、自分の力で勝ち取ってみせる。
こんなふざけたゲームの賞品として、あんな卑劣な奴らに与えられるまでもなく。
夢と秤にかけて、人を殺す人間がいるとでも思っているのか。
自分が、そんな浅ましい人間に見えるのか。
口ほどにものを言う彼らの視線は、ひどく松坂の矜持を傷つけた。

そしてまた、銃声が聞こえる。
先程とは違う音が、先程と違う方角から。

「もう、いいかげんにしろよな! どんだけやる気になってんだよっ! バッカじゃねぇの!」

正体のわからない発砲者に悪態をつきながら、松坂はどんどん早足になってゆく。
銃声は、彼を怯ませる代わりに闘志を燃え立たせていた。
そして、ここに至る経緯のすべてが、松坂の怒りを加速させていた。
誇りを傷つけられた若獅子が、誇りを取り戻すためにやるべきことはひとつ。

「見てろよ! この糞ゲーム、ぜってぇぶっつぶす!」

松坂は、運命に反逆する覚悟を決めた。




戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送