60.お人よし --------------------
小林雅英は、小船から降りた後まっすぐ右手へと歩いていた。
・・・森の中から誰かの視線を感じる。それも、複数人の。
この中に、ナオの視線も混じっているのだろうか?
そういやあいつ、結構ここぞという試合でヘタレてたからなぁ・・・。
打たれた試合の後、背番号18がロッカールームのベンチでやや俯いて目を閉じている姿を思い出す。
だからこそ、俺が行ってやらなきゃいけないんだよな。
いきなり誰かに襲われて怪我なんてしてないよな?
あいつ根がいいやつだから、うっかり誰かにだまされていなければいいんだが。
・・・なんでここまでナオの心配をしながら歩かなきゃいけないんだ俺。
小林は思わず苦笑する。
「雅やん、雅やん。」
木々の陰から、聞きなれた声がした。
「・・・ナオか?」
小林が、声のしたほうに注意深く近づく。
「雅やん、怪我、ない?」
「あ、ああ。」
小林が言いながら木の陰を覗き、息を呑んだ。「お前、すごい怪我だぞ?!」
「あ、うん・・・。ちょっと、痛いよ?」
木に寄りかかった清水直行の左の肩から腕に向かって血がどす黒い染みを作っていた。
「何があった?!」
「・・・さぁ?」
清水は力なく笑った。「なんや、後ろの方で銃声したっぽいけどな・・・?」
「お、お前・・・。」
小林は脱力してその場にヒザをつく。
「利き腕やないし、つばつけとけばそのうち止まるんやないか、って思て。」
清水はそこで、ひとつ息をついた。
「なあ、雅やん。俺、狙われたんかな?・・・それとも、なんかの間違いやったんかな?」
清水はのんびり言った。小林は自分のユニフォームの一部を細く破ると、清水の左肩を縛る。
「ほんとに人がいいなお前・・・。」
呆れたように小林が言うと、清水は笑った。
「ははは・・・せやかて、信頼できへんと、9回のマウンドなんか、人様に譲られへんで?」
「そうか・・・。」
「あまり、こういう状況やからって、一緒にやった仲間やもん。やっぱり疑うのは良くないんちゃうかな・・・?」
「そう、だな・・・。負けたよ、ほんと。」
薄く笑いながら言う清水に小林は諦めたように言うと、肩をすくめて少しだけ笑った。
「俺、カッコワルイわ・・・武器がちょっといい奴だったからって、雅やん守ったるって思ったけど、結局守られてんやん。」
小林はそこで初めて、清水のベルトに銃が挟まっていることに気がついた。
「少しでも皆を疑った、天罰ちゃうかなぁ・・・。」
「・・・とりあえず、立てるか?」
小林は清水のカバンをも背負い、清水に手を差し伸べる。
「ああ。・・・雅やんに会うたら、ちょっと元気でたわ。」
清水は笑顔を作ると、ゆっくりと立ち上がった。
「病院かなんか、あるだろ。そこで怪我の治療して、これからどうするか考えよう。」
小林は自分に言い聞かせるように言うと、清水とともに歩き始めた。
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