57.背負いすぎ --------------------



…どいつもこいつも…人に嫌な物を何もかも押し付けて、楽したがるんだよなぁ。
和田の姿が見えなくなると、城島は何食わぬ顔で双眼鏡で再度海岸を覗く。
殺して武器を奪えたかも知れないが、あの和田の青白い表情を見れば殺す気すら失せる。
こんな状況でまだ人を頼ろうとする奴は、どうせ足手纏いにしかならない。お荷物だ。
もう、誰かの油断に自分が巻き込まれるのはうんざりだった。
あんな様子じゃ、そのうち誰かに殺される。だがそれは全て和田自身の責任。自分には関係無い。

…責任か…。

双眼鏡を覗く先を豪華客船に移す。最初は綺麗だと見蕩れたその船体も、今となっては忌々しい。
あの中には、悪がいる。それに纏わりつく愚人。その中の一人を思うと、反吐が出る。

…あんたはまた楽しい所で高見の見物ですか。良い御身分ですね。

五輪時、自分より重大な責任を背負っていたはずの彼らは優雅にアテネを観光していた。
必死で敵対相手の試合を見て研究していた自分が、馬鹿みたいに思えた。
銅メダルに対しても、あれ程金、金、と騒いでいた国民はあっさり妥協した。
妥協されるより、責められた方がずっとマシだったのに。それだけの覚悟を持って挑んだのに。
必死で金を取ろうとしていた自分が、馬鹿みたいに思えた。

五輪会にだって、強制参加じゃなければ来なかった。
アテネ五輪野球に関わった人間と会うのが嫌だった。
ただ、和田が一人で行くのが心細そうだったから仕方無く付き合っただけで。

国民の期待。選手の信頼。国の名誉。4番の責任。
色々な物を背負って。必死にそれに応えようとした結果が、これか。
これ程までに報われない結果は、人類史上そうそうある物じゃないだろう。

城島は双眼鏡から目を放して、辺りを見回す。
辺りに人の気配は無い。先程の銃声を警戒しているのだろうか。
先程和田がもたれかかっていた木に寄りかかり、再び海岸を見やる。

…海岸を覗いてたのは、仲間を集めて皆で助かる為?
和田の言葉に笑いが込み上げ、顔がニヤつく。そんなつもりは全く無かった。
ここでは自分の命だけを背負えば良い。
他人の命も信頼も責任も背負う必要も義務も無い。
死んだら、何もかもがそこで終わり。野球よりずっと気楽だ。

…和田。悪いけど、俺もう何も背負いたくないんだ。

笑っていたはずの顔はいつしか悲しそうな表情に変わり、微かに曇った空を見上げていた。




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