50.雑草 --------------------



「クソッ、よりにもよってこんな時に」
上原は舌打ちした。
期待は最悪の形で裏切られた。
優勝こそ逃したが巨人の弱体投手陣の中にあって獅子奮迅の働きをし、
アテネ五輪でもそれなりに世界にアピールできたと思う。
シーズン中に結婚もした。さあこれからというときに。
乗り込んだ豪華客船は、地獄への渡し舟であった。

自分の直前に船を出た松坂の姿は見えない。無論他の選手も。
しかしゲームは確実に始まっている。
既に中村が殺された。そしてこうしている間にも誰かが殺し合っているかもしれないのだ。
右手に鎌を握り締め――これが彼の支給品だった――身を潜める。
戦えなくはないが、やはり銃をもっている相手には分が悪い。
迂闊に見つかることは避けねばならない。

とにかく生き残らねばならない。自分のため、そしてあの男と決着をつけるためにも。
「とにかく我慢、や」
いつものように言い聞かせる。苦境に陥った彼をいつも救ったのがこの忍耐だった。
高校で建山の控えに甘んじていた時も、大学に落ちて浪人していたときも。
メジャー移籍騒動で毎日のようにマスコミに叩かれていた時も。
この場にいる他の選手にはない、エリートコースの外から這い上がってきた者の強さが自分にはあるはずだ。
何としてでも生き残ってやる。雑草魂を見せてやる。

遠くで、殺し合いの開始を告げる乾いた銃声がした。




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