48.嗅覚 --------------------



まさかこんな形で日の丸を背負うことになるとは。
真新しいユニフォームに袖を通してみても、酷く着心地が悪いのは気のせいだろうか。

気持ちの整理もつかないうちに、福留のスタートはやって来た。
どうやら舞台となる島には豪華客船が泊まることが出来るほどの港はないようで、
簡素なボートに乗り換えて島へと送り届けられた。
監視役の係員としてなのか、ボートには銃を手にした男が2人一緒に乗り込んでいた。
福留持ち前の明るさで軽口を叩いてみたが、無機質な銃口を向けられただけで、
彼らは口を開かなかった。

もしこれが手の込んだ作りものなのだとしたら?

例え島についても、適当にサバイバルごっこか何かして終わるだろう。
さんざん怯えきった選手たちを見て、誰かが笑うんだろう。

でも、これが本当の殺し合いなのだとしたら。

ゲームの舞台に上がるまえに逃げ出した方が得策なのでは?

ボートには3人だけ。
だが、膝をつき合わせるほど小さなボートでは、不穏な動きをしただけで
黒光りする銃口が火を吹くだろう。
このゲームが本当なのだったら。

BRとやらが作り物でも本物でも、海の上で暴れてみてもいいことはない。
ならば、陸に上がってから考えた方がいい。
どちらにしろ、揺れるボートの上ではマトモな考えもこぼれ落ちてしまいそうだ。

ボートを下りる前に、ダイヤモンド・プリンセス・シーを振り返る。
乗る時には何とも思わなかったが、今はひどく禍々しく見える。
悪魔の煌びやかさなのか。

ぞくりと鳥肌を立たせて、不気味な静寂に包まれた島へ足を下ろした。
背番号順なら、次にここへ来るのは小笠原道大。
ファイターズの頼れる選手会長だ。

だが、福留は小笠原を待つことは出来なかった。
理屈ではなく、身体が拒否したのだ。
平坦な海辺にいることを、怖いと思ったのだ。
それはきっと、命の危険を感じた動物の本能。

鞄の中身を確かめるために、福留は隠れる場所を探して島の中へと入って行った。




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