43.ロケット広場 --------------------
なんばCITYのロケット広場。
大阪の繁華街なんばでも待ち合わせ等でよく使われるその場所で、沖原佳典は電話を受けていた。
「ああ、渡辺くん。久しぶりやね。」
沖原は周りを見て、階段の影に移動した。
渡辺の声が、ともすれば雑音で消えそうになる。どうやら渡辺はどこかに外出でもしているようだ。「この前の件?」
『はい。確認したいことが一つ。』
「確認・・・?」
沖原の呟きを無視して、電話の主である渡辺俊介は続ける。
『ちょっと思い出して欲しいのですが、・・・電話って、特定の番号に対して、通話規制をかけることはできますか?』
「またずいぶん懐かしい話を・・・できるが、やるとすれば局内で工事が必要やな。」
沖原は頭をかいた。「それが、どないしたん?」
『そうか・・・。』
渡辺の、つぶやき。
「せやから、なにが、どうなってんねん?!」
沖原は語気を荒げて聞いた。「電話、切るぞ?」
『あ、ああ。すみません。』
慌てたように渡辺は謝った。『実は、横浜ベイスターズの三浦さんの家なんですが、もしかすると通話規制されていた
んじゃないか、と思いまして。』
「なして?」
『吉見くんがここ数日中ずっと三浦さんに電話かけてたらしいのですが、全く電話がかからなかったようなんです。』
「へぇ・・・。」
沖原はいい、目の前にあるロケットを見上げた。
・・・そんなことをするなんて。何のために?
『一応確認のために、吉見くんを三浦さん家に行かせて今の状況を確認してもらってます。
野田には石川くんと阿部くんのフォローに向かわせてますが・・・正直人が足らないです。』
渡辺はため息交じりに言った。
『沖原さん、忙しいところを大変申し訳ないですが、
・・・できたら赤星さんや杉内くんなんかも連れてこっちに合流していただけませんか?』
「・・・わかった。あの手紙は正直変だったからな・・・。気になっとったんや。」
沖原は一つ息をついた。「皆に声かけて、そっち行くわ。また連絡するねんけど、早くて到着は明日やな。」
『はい。ありがとうございます。』
渡辺の声と重なって、遠くで汽笛の音が聞こえた。
通話を切ってから、沖原は渡辺がどこから電話をかけてきたか聞くのを忘れたことに気がついた。
彼は手に持ち少し熱を帯びた携帯を見ながら少し迷い、携帯をもう一度開ける。
「もしもし、赤星? 俺、沖原や。」
『あ、お疲れさんです。』
赤星はどこかの室内なのか、静かなところにいるらしい。声がよく聞こえる。
「今、おまえどこ居る? この前の件やねんけど・・・。」
『大阪ドームにあるジムにいますけど?・・・ああ、優也や敦士に来てた例のアテネ五輪会の件ですか。』
赤星はこの前の件、で状況を理解したらしかった。
「せや。アレ、やっぱりオカシイて今、渡辺くんから連絡あってん。」
『なるほど・・・。そういうことなら、こちらからも援軍に行きます?』
赤星は言う。『渡辺のことやから、多分人が足りんとか言って来はったんでしょ?』
「そういうことや。とりあえず杉内くんとか山田くん、廣瀬くんあたりに声かけよ?」
『分かりました。明日にでも関東に着いて合流したほうがええかも分かりませんし。現場判断でやりましょ。』
赤星はまたかけます、と言って電話を切った。
沖原は電話を閉じると、ふうと息を吐く。
「さすがに聡いな、赤星・・・。」
一言つぶやき、沖原は傍らの階段を駆け上がった。地上では、冬の日差しが柔らかに照らしている。
彼は冷たい風に上着の襟を立て、駐車場へと歩いていった。
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