42.豪華絢爛 --------------------



「『アテネオリンピック五輪会』にご出席の皆様、本日は『ダイアモンド・プリンセス・シー』にご乗船いただき誠に
ありがとうございます。スタッフ一同、誠心誠意、皆様のお世話をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。」

 メインシアターの舞台前で赤いチャイナ服に身を包んだ女性が言い、頭を下げるとその後ろに並んだアオザイに身を
包んだ女性たちがいっせいに頭を下げる。

 その一言で始まったアテネ五輪会は、選手たちにとっても驚きの連続だった。

 豪壮なつくりのメインシアターホールの内壁は彫刻やタペストリーで飾られ、
 天井を見上げれば大きなシャンデリアが煌びやかに明るい光をホール全体に落としている。
 メインシアター前方には大きな舞台があったが、
 刺繍とスパンコールで彩られた緞帳がおりていて、舞台の様子は見ることができない。
 広いホールにはビロードが敷かれた丸テーブルが置いてあり、
 その上には色とりどりの花やリボンで飾られたオードブル等の料理が並べられていた。
 そしてBGMは弦楽器をメインとした弦奏楽団が生演奏をしている。

「なぁクマ? あれ食った?」
「え、アレ? アレって・・・?」
 岩隈久志が清水直行に言われ、キョロキョロと周りを見回した。
「フカヒレの姿煮とか、ムッソリーニステーキフォアグラ添えとか。・・・ほら、さっきから何にも食ってないみたい、だからさ?」
 清水は取り皿をテーブルに置き、グラスを代わりに取った。
「あ、はぁ。・・・なんだか腹減らなくて。」
 岩隈は肩をすくめる。
「それにー・・・。」
 そこまで言って、岩隈はもう一度周りを気にするように見回した。
「ノリさん、ここ来ないって。」
「はぁっ?・・・アリなんか? それ?」
 清水は思わずグラスを取り落としそうになり、そしてぐるっと見渡す。
「た、確かにおらんけど・・・。」
「俺にもわかりませんよ・・・。」
 岩隈は、深くため息をつく。清水はなんとはなしにグラスの底を注視した。
 Baccarat。テーブルウェアのブランドに疎い清水でも、その名は聞いたことがある。
「取り皿の裏には、マイセンのマーク入ってますよ。」
 岩隈はいい、グラスの中身を飲み干した。カラン、と氷がグラスに当たって澄んだ音がする。
「少し、気味が悪いくらいに徹底されてますよね、ここって」
 清水はかぶりを振り、岩隈の言葉に肯定の意を表した。
「お客様。こちらの飲み物はいかがでしょうか?」
 不意に声をかけられ岩隈がびくっとして振り返ると、アオザイを着た女性が飲み物が入ったグラスを載せたトレイを差し出した。

「皆様。お手持ちのカードの準備はいかがでしょうか?」
 メインシアター横の司会台には、赤いチャイナ服の女性が立っていた。
「アテネオリンピック五輪会事務局から皆様への感謝の意を込め、少しばかりのプレゼントを準備させていただきました。
 こちらをお配りするため、当方でクジ引きをさせていただきます。」

「クジ? そんなんありましたっけ?」
 石井弘寿はそのアナウンスに、持っていた取り皿をテーブルに置いた。
 相川亮二は懐から紫色の封筒を取り出す。
 封筒の中身は、トランプのカードが一枚と、小さな鍵。
「もしや、コレか?・・・なんだ?この鍵?」
 スペードの12。相川はそのカードと小さな鍵をしげしげと眺める。
「あー、そういや貰いましたね。」
 石井もポケットから紫色の封筒を出した。カードはスペードの6が出てきた。
「他の人は何番なんですかね?」
 石井は周りを見回した。

「・・・あれ?」
 石井はもう一度、周りを見回す。
「どうした?」
 相川も周りを見、ある違和感を感じる。
「・・・ウェイトレスさん、いなくね?」
 相川の問いに、石井も頷いた。
「ああ、やっぱりそう思います?」
 先ほどまで目ざといまでに飲み物を勧めていた女性たちの姿が、消えていた。

「なお、くじ引きをするのにあたり、特別ゲストとして星野仙一様をご招待させていただきました。・・・」

「はぃ?」
 藤本敦士と安藤優也は女性の声に、互いの顔を見合わせた。
 福留孝介と村松有人、谷佳知はその様子思わず苦笑する。
「なんだ、お前らには連絡なしかよ。」
 村松はハートの11を手の中でもてあそんでいる。
「そんなん、言うたって・・・、なぁ。」
 藤本はスペードの11を出した。
「あ、藤本は村松さんと数字一緒や。」
 安藤がスペードの9を皆に見せる。
「俺はハートの7、谷さんはスペードの8ですか。」
 福留は言い、自分のカードを注視した。

 くじ引きは、星野が別に準備したボックスの中に入っているボックスからカードを引く、という単純なものだった。
 景品として用意されたものは、何やらいっぱい入っている鞄。
 鞄にはなぜか、ファスナーが開かないように小さな南京錠がつけてある。
 が、その場にいた選手たちには鞄がなんだかすぐに分かった。

「あれ、アテネのときに配られた鞄じゃないですか・・・?」
 和田一浩がつぶやくと、宮本慎也も低くうなずいた。
「何考えてる? 五輪会事務局とやらは・・・?」
「わかりませんね。」
 宮本の言葉に、和田は肩をすくめる。その手には、ハートの6。
 一方、宮本の手の中にはスペードのAが握られている。
「・・・あとな、ゲームに使うっていうて、変な首輪つけられたろ。」
 宮本はそっと首元に手を当てた。
 入り口でカードを選んだとき、一緒につけられたものだ。
 金属製だが、そんなに重さは感じられない。
「何のゲームに使うのかもさっぱりわからんし。・・・そもそもこの五輪会って・・・。」

 なんだか重たいものでも入っているのか。
 小笠原道大は星野から貰った鞄をまじまじと見た。
「おつかれさん。ようがんばったな。」
 自分が持つカードを呼ばれ、星野から鞄を渡され、握手を求められ、なし崩しに握手はしたものの。
「ゲームの説明をするまで、開けないでくださいね。」
 司会の女性が笑顔で言った言葉が、頭の片隅にこびりつく。
 ゲーム?
 なんだか嫌な響き。そういや、さっき変なチョーカーつけられた。
「・・・中、なんでしょうね?」
 金子誠がニヤニヤしながら言う。
「さあ?」
 生返事で小笠原は答え、鞄を足元に置いた。
「ハートのエースだったし、きっといいもん入ってるでしょう。」
 金子は自分が得たカード・・・ハートの8をポケットにしまいながら言った。
「そうか・・・?」
 小笠原は言いながら、まだ自分の中で感じた違和感が何か、考えに耽っていた。

「・・・大体メモできたな。」
 黒田博樹は携帯をいじる手を止めた。
「マメやなー・・・。」
 木村拓也はニヤニヤしながら、同僚を横目で見ながら言う。
「じゃ、見せんわ。」
 黒田が携帯をしまおうとすると、木村は笑顔のまま黒田の手を止めた。
「まあ落ち着け。」
 木村は黒田の携帯を覗き込んだ。

宮本 S1
清水 S2
高橋 S3
和田毅 S4
木村 S5
石井 S6
谷 S8
安藤 S9
岩隈 S10
藤本 S11
相川 S12
小笠原 H1
城島 H2
上原 H3
黒田 H4
三浦 H5
和田一 H6
福留 H7
金子 H8
岩瀬 H9
松坂 H10
村松 H11
小林 H12

「よく短時間でここまで打ち込んだな・・・。」
 木村は言い、それからあわててつけたす。
「ほめてるからな?」
「・・・分かってますわ。」
 黒田はバランタインを軽くあおり、傍らのテーブルに置いた。
「ただ、・・・なんやろ、なんか、変な気持ち。」
 心の奥に引っかかる、気持ち。嫌な予感?
「嫌な予感?」
 木村の言葉に、黒田は眉をしかめ、木村のほうを見た。




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