36.死神の到着 --------------------



岩瀬は大きな『ダイアモンド・プリンセス・シー』を見上げた。
その大きさに少しばかり見とれたが首筋に寒気を感じ、すぐに首をすぼめた。
外からでも既に船の中の賑わう声が聞こえてくる。
時計を見るともう乗船時刻ギリギリだ。だいぶ準備に時間がかかってしまったようだ。

「タキシードなんて着慣れてないからなぁ…」

そうつぶやくと自分の所為でくしゃくしゃになってしまった招待状をポケットから取り出した。
もう時間がない、小走りでゲートへと向かう。
ゲートで招待状の掲示を促され招待状を差し出すとゲートの係員にちょっと嫌な顔をされたように感じた。

(…そんな顔されても…)

やってしまったものはしょうがない、あんまり岩瀬に罪の意識はないようだ。
そのまま促された方向へと進むが中は広く迷ってしまいそうだ。

(五輪か…)

今更ながら五輪のことを振り返りはじめる。
時は結構過ぎているのについ、最近のことのようだ。その時、手にした銅メダルはなにか悲しささえ感じた。
五輪終わりも即シーズン、日本シリーズと抑えのエースとして多く投げ続け忙しい一年、
でもそのことよりも今、行なわれる五輪会に岩瀬の頭はいっぱいになっていた。

「なにかわからないけど楽しみなんだよね。」

歌うようにそう言うと先程のように小走りでメインシアターに向かう。
その楽しみというものは純粋なものなのかそれとも…




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