30.微かな期待 --------------------



「あーああんま気乗りしねーな。」
その頃18番松坂大輔は自宅にいた。
松坂大輔は、何度も何度も招待状を読み直していた。
『一体、重大な罰則を科すってどういうことだ?』
ずっとそれが気にかかっていた。
その時だ。
「大輔」と自分の事を呼ぶ声がした。
妻の倫世だった。
「何だよ。」
と大輔が言った。
「見て、このスーツ私が日テレのアナウンス時代にお世話になってた
スタイリストさんに特別にオーダーしておいたの。」
そのスーツは、確かにセンスは悪くなかった。
大輔は、ため息混じりに言った。
「おい、そんなに気合入れなくてもいいよ。正直行きたくねぇし、俺たち結婚
してオフに近場の温泉とか行きたいなぁって思ってたんだよ。」
しかし倫世は大輔に思わぬことを言った。
「私思うんだけどこれってメジャーか何かの選考会に思えるの。」
「メジャーの選考会ねぇ・・・」
と大輔がため息混じりに言った。
確かに日本は銅メダルに終わったとはいえあの野球大国のキューバに大差
で勝って一人で投げきった松坂大輔に対しては評判は悪くは無かった。
日本のメディアも「メジャーのスカウトが注目してる」と騒がれて
現に大輔を獲得に動いている球団も数球団あるとも言われている。

「そうなればメジャーリーグ関係のお偉方さんとかもたくさん来ると思う
の。私の時もそうだったけどそういう方たちの前では、きちっと正装して
行くべきなんじゃないかしら?」

確かに倫世の言う通りだ。
「メジャーか・・・。」
大輔は、メジャーリーグへの夢が全く無いといったら嘘になる。
同じチームで予選で戦ったメッツへ行った松井稼頭央を見て
自分もいつかは・・・と思っていた。
倫世の言ってる事はその時の大輔には、満更でもないように思えてきた。

「大輔、こんなチャンス逃す手ないじゃない。私もあの時現地で仕事で
見てたけど大輔は本当よくやってたわ。怪我してたにも関わらず最後
迄投げきってそれがメジャーの人たちに通じたのよ。」

「そうだよな。」
「行っておいでよ。」
「あーぁ。」
大輔の不安は、倫世の言葉によって不安から希望へと変わってきた。
「確かにこんな願ってもいないチャンスかもしれないよな。」

「忘れ物は無い?気をつけてね。」
大輔は、スーツが入った紙袋を車の後部座席に乗せた。
「行ってらっしゃ〜い。」
「行ってきます。必ずいい報告持って帰るから。」
大輔はそう言い残し指定された横浜の船上のパーティー会場へ
車を走らせたのだった―




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