20.苛立ち --------------------



「お前何で俺に直ぐ相談せんと宮本さんとメシ食うとるん?」
 上原はケータイに向かって大声で喚いていた。
 電話の向こうの人物はそっけなく「うっせぇな」とだけ返す。
『キャプテンの宮本さんならなんか知ってるかなと思っただけじゃねぇか。ちゃんとこうして連絡してるだろ?
 いちいち細かいことうるせぇんだよ、お前は』
「冷たいなぁ由伸は。直行も黒田さんも直ぐに連絡くれたってのに」
『え? それでどうするって』
「どうもこうも、強制参加なら行くしかないやろって。ちょうどそのころ予定入れてたのにって愚痴ってたわ」
『みんな来るのか……』
 由伸の呟くトーンがふざけているモードからシリアスなそれへと変わったのを敏感に上原は感じ取った。
「何?」
 思わず問い返す。
『何かおかしいと思わねぇ?』
「どこがやねん?」
 上原は話しながら目の前のテーブルに置いてある白い封筒を摘まみ上げる。
中から遊び紙に被われた三つ折りの案内状を引っぱり出し、改めて開いてみた。
『強制参加っての』
「せやって長島監督が来るかもしれへんし、しゃーないやん。体面的に誰か抜けてたらヤバいってことやないの?
 どっちにしろ監督来るんやったら俺とお前だけは絶対に行かなあかんやろし」
『そりゃそうだろうけどさ……』
 何が気になるのか、由伸は黙り込む。
 上原は手の中にある紙を見つめながら、続く言葉を待つ。
『そうだな。監督が来るかもしれないんだもんな』
 それはどこか自分を納得させようとしている呟きに聞こえた。
「そうや。監督が来るんやから」
 上原はあえて断定した。

 自分はこの手紙を見た時に何もおかしいとは思わなかった。
 何かに気付いた由伸はチームメイトである自分では無く、五輪のキャプテンである宮本に相談に行った。
 同じものを受け取ったにも関わらず、どうして受け取り方が違うのか。
 全く同じ年、同じ誕生日であるのに、どうして。
 上原の中に微かないら立ちが沸き起こる。

「行かな、あかん」




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