19.見慣れた町並み --------------------
三浦大輔と相川亮二は、客船『ダイアモンド・プリンセス・シー』の最上階デッキの上から山下公園を眺めていた。
視線を移せば、見慣れたY字型のライトが見える。
さらには、マリンタワーや中華街の町並みもビルの隙間から見え隠れしている。
「今でも後悔してますよ。やっぱり中身教えなきゃよかった、って。」
相川は三浦に言い、山下公園に背を向けて手すりに寄りかかった。「怪しいですもん。この会。」
「嫌な予感がしたから俺は吉見にとりあえず相談してみたぞ?」
三浦は晴れた空を見上げた。気持ちのいい海風が、雲をゆっくりと動かしていくのが見える。
「吉見に?」
怪訝そうな顔をして相川は三浦を見る。
「ああ。あいつもオリンピック行ったからな。」
三浦の答えに、相川ははぁ、と息をつき頭をかいた。
「そうかー・・・あいつ、シドニー組でしたっけ。忘れてたなぁ。」
相川は口を尖らせ小さくつぶやく。三浦はその様子をみてはは、と笑った。
笑いながらも三浦の胸中には、吉見祐治のとある一言が深く刺さっていた。
『 こ れ 、 本 物 で す か ? 』
吉見は書面と封筒のコピーをとり、他のシドニー組にも聞いてみると言っていた。
あれはどうなったんだろう?
結果も聞かず、俺はここにいるが・・・。
「・・・うらさん? 三浦さん?」
相川の問いかけに、三浦は意識を相川へと向ける。
「・・・なんだ?」
「なんだ、じゃないですよ。せっかく来てるのに、ただ上に上がっただけじゃないスか。」
相川は言いながら、階段へと歩いた。「横浜の街はいつでも見れるんですから、もっと他のところも見ましょうよ。」
「いつでも、か・・・。」
三浦は一度振り返って横浜の街並みを眺め、相川と階段を下りていった。
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