17.豪華客船 --------------------
「おはよう」
・・・言ってみた挨拶で、こんなに憂鬱になるのも珍しい。
小林雅英はややうつむき加減な同僚の肩をバンバンと叩いた。
「なぁ、雅やん。」
清水直行はタキシード姿だった。
なぜなら、あの手紙にそう書いてあったから。
もちろん、小林もそれに習ってタキシードを着てきている。
「普通、こんなカッコするときは、いいことがあるときだと思うんだけど・・・。」
「みなまで言うな。俺もテンションさがるわ。」
横浜港の大桟橋。国際客船ターミナルに、二人は立っている。
目的地は現在ターミナルに停泊している客船『ダイアモンド・プリンセス・シー』。
主にアラスカクルーズを行っている外洋大型客船の一隻だ。
今回は造船されて初めての日本寄港らしい。
二人は少しの間乗船ゲートの前で自分たちと同じ目的の者を待ったが、誰も現れなかった。
二人は意を決して手紙で指定された乗船ゲートに進み、五輪会に来た旨を係員に伝えた。
「はい。封筒はありますか?」
制服を着た女性係員に彼らがそれぞれ封筒を差し出すと、彼女は封筒を何かの機械にかざす。
ピッ!
機械的な音がなったのを聞き、モニターを見ていた係員はにっこり笑った。
「失礼いたしました。千葉ロッテマリーンズの小林様と清水様ですね? 承っておりますので、このままお進みください。」
彼女はは封筒を二人に返すと深々と頭を下げた。
「良い旅を。」
タラップを上がり進んだ客船の中は、豪華ホテルそのままだった。
踏むとソールまで沈み込むような毛足の長いじゅうたんが敷き詰められ、豪華な調度品が目を引く。
メインエントランスに船の設備や概観が書かれたプレートがかけられていたため、二人はおのずと足をとめてそれを眺める。。
どうやらこの船にはカジノやメインシアター、ジャグジースパ、レストランも複数箇所あるらしい。
五輪会のメイン会場はメインシアターと手紙には記されていたが、まだ集合時間には時間があった。
小林は、携帯を取り出すとプレートを写真に撮る。
「記念だから、な。」
「記念なんだったら、俺、撮りましょうか?」
清水は言いながら小林の携帯を奪い取ると小林とプレートをあわせて撮影する。
小林は清水の携帯を取り上げ、同じように撮影した。
「・・・さて、どうしようか?」
二人は撮影したプレートを見ながらあちらこちら一通り歩き終わった。
「暇だし、とりあえずなんか飲んどくか。」
清水の問いに、小林はとりあえず目の前にあるバーを見ながら言った。
「いいんかな? 俺らここに泊まってる訳じゃないし。」
「いいんだよ。多分。」
小林は肩をすくめると、バーに行き何かを注文した。バーテンダーは頷き、手馴れたしぐさでシェーカーを降り始める。
「ほんまに、いいんかなぁ・・・。」
つぶやく清水に、小林の声が飛んできた。
「ナオ、お前の分も作ってもらったぞ。」
「あ、はぃ・・・。」
あの手紙、届いたよな?
清水は祈るような気持ちになり、天井を仰いだ。
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