146.形勢逆転 --------------------



それは、予想していたものよりもずっと小規模な爆発だった。
だが金子はそう思う前に茂みから身を起こし、三浦への元へと走りだす。

肥料を粉末状に砕いて袋に詰めなおし空気を含ませた小型の粉塵爆弾は見事に三浦の目を襲った。
目を眩ませたのか両手で顔を覆う姿に閃光弾としてはまずまずの出来だったのでは、と内心自画自賛する。
肥料だけではあまりに不安だったので成功率を上げる為に発火性のある殺虫スプレーも吹き込んだ。
それが良かったのかどうか。そこまで考える余裕はなく、まずは落ちている銃を手の届かない所まで蹴り飛ばす。

元々銃を奪うつもりは無かった。扱った事がない物をすぐに使いこなす自信は無い。
相手が使えなくなればそれで十分。接近戦に持ち込めればこちらに勝機はいくらでもあるのだから。

未だに眩みを拭えない三浦に向けて、今度は殺虫スプレーを顔面に向け思い切り吹き付ける。
吹き付けたそれは三浦の目に更なる痛みを齎し体勢を強引に崩させる。
フラ、とよろついた隙に完全に無防備な膝をすくい地面に倒れこませて圧し掛かり、
素早く辺りを見回し手が届く所には武器になりそうなものは無いと察すると、
ポケットの中に突っ込まれたシャベルを取り出し顔面に向けて力一杯振り下ろした。

しかし自分に向けられる危険物に反射的に動いたのだろうか、三浦の手はシャベルを撥ね退ける。
やられてばかりではいられない、そんな気迫に押されたシャベルは進路を僅かに変え、首輪に命中する。


ガチッ、と金属特有の音が辺りに響く。


不味った。そう思った瞬間、言いようの無い不気味な音が金子を襲う。
目の前で強い輝きを放つ青白い光にただならぬ恐怖を感じて無意識にその身を逸らすが、
その光が微かに腕に触れた瞬間、金子の全身を電気が駆け抜け一瞬にして身体の自由を奪う。

そして金子の体はいとも簡単に地面に投げ出された。

―――――動けない。動かない。

それと同時にそれがどんな武器か分かってしまった意外なほど冷静な脳に感心する。
だが、自由の利かない身体への苛立ち。そしてそれ以上に圧し掛かってくる、恐怖という名の緊張。
今この状況で動けない自分に待っているのはどう考えても、死しかない。

(動け…動け、動け!!)

目の前にいる人間が自分に銃を向ければ、数秒後には激痛か二度と目を覚まさない眠りが待っている。
どちらも嫌だ。だが身体が動かない。視界すらもまともに動かせないまま、三浦に視点が固定されている。
必死にもがく心とは裏腹に、身体は脳からの命令を一切受け付けない。
恨み言も辞世の句も放つ事すら許されない中、自分を殺す相手を見ながら死を迎える事になるのだとしたら。
自分は何処まで運が悪いのか。せめて目を閉じられればいくらかはマシだろうに。緊張の中に諦めが漂い始める。
三浦は形勢逆転、とでもいいだけな嫌味な笑みだけ浮かべて自分を見下ろす。
向こうにとっては敗者に投げかける言葉など無いという事か。
だがその態度自体が「お前は所詮その程度だ」と言っている様で、妙に癪に障った。

(くそ…セリーグの奴に負けてたまるか…!動け、動いてみせろ…!!)

金子の悲鳴は天にも届かず、再び闇夜の森に沈黙が漂う。
だがその沈黙は二人を小さな小さな音に気付かせる。


ピ、ピ、ピ、ピ…


音。金子はそれが電子音だという事はすぐに分かった。だが、その出所が分からない。
だが目の前の三浦はそれが何から発せられる音かすぐに分かったようで。一瞬にして表情を驚愕に歪ませる。

そして傍らに誰もいないかのごとく首をかきむしり出した。何か言っている。必死で、何かを。
だが今の状態ではまともに聞き入る事が出来ない。いや、聞き入れたとしても何を言ってるか理解できただろうか?
三浦自身、もしかしたら何を言ってるか分かってないかも知れない。ただ、その表情は異常なまでに焦っていた。
首輪をはずそうとしているような、そんな様子を感じ取った時、ふいに2人の視線が交わる。


目が合った瞬間、三浦の首元が眩い光に包まれた。


【金子誠(8) 三浦大輔(17) G−2】




戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送