143.声無き戦い --------------------



植木鉢を茂みに投げつけた後、金子はすぐに三浦の背後の草陰に移動していた。
ガツッと鈍い音がしたと同時に、それまで目印にしていた懐中電灯の灯りが地面に落ちる。
移動の途中で偶然見つけた手の平程の大きさの石は、見事に標的の頭に命中したようだ。
しかし、力一杯投げつけたその石は相手の意識を奪うまでには至らなかった。
三浦は頭を抑えながらも、そこに立っている。だが金子の存在にはまだ気付いていない。
灯りに頼っていた目が闇に慣れるまで、今少し時間がかかるだろう。
今ならまだ逃げれる。しかし今の金子の頭の中に逃げる、という文字はなかった。
三浦もすぐに体勢を立て直し銃を構える。お互い、引く気はない。

沈黙が流れる中、三浦は慎重に地面に落ちた懐中電灯を拾い上げようと片手を伸ばす。
頭から首へかけて一筋、流れたそれは触る事無く血である事が理解できる。
殆ど何も見えない暗闇の中で一挙一動に神経を払う三浦。鈍い痛みは一向に引かない。
声を荒げれば相手に場所を伝える事になる。しかしそれは懐中電灯を手にしても同じではないか?
だが灯りがなければ相手を識別する事が出来ない。相手は闇に慣れる時間を与えてくれそうにない。
真っ暗闇の中で覗いたスコープは暗視機能がついていないのか、何も映してはくれなかった。
(くそっ……どうする…?)
三浦は小さく舌打ちする。誰か一人でも仲間がいれば助かる方法はいくらでも思いついただろうに。
後頭部から流れでる血のせいか視界が微かに眩んで、大声を出すだけの気力すら湧き上がらなかった。
(落ち着け…武器はあるんだ。武器は…。)
まだ弾はある。銃を構える為に乱暴にポケットに突っ込んだマイオトロンも片手ですぐにでも取り出せる。
追い詰められた訳ではない。むしろ人数を減らせる好機。そう心を落ち着かせる。

そんな三浦の動作に気を払いながら金子は肥料の入った袋の口を掴んだ。
弾はまだあるのか、もうないのか。他にどんな武器を持っているのか。何を考えているのか。
情報がなさすぎるこの状況に、袋を掴む手にも額にもじっとりと嫌な汗が滲む。
今、この手には一つの武器がある。それは本当に武器になってくれるか分からない頼りない物。
以前にちょっとだけTVで見た事があるだけで、本当にこの場でこの武器でそうなってくれるか分からない。
詳しい説明等もよく覚えていない。記憶の底から引っ張り出して作り上げた、本当に頼りない武器。
こんな物が本当に通用するのか。これで本当に人が殺せるのか。
金子の中で様々な不安が渦巻く。だが、それでも逃げるという文字は頭を過らなかった。
(…やるだけ、やってみるか。)
先程、三浦は物を確認する事無く弾を放った。この武器が成功する可能性は高い。
失敗しても無くなる訳ではない。機会を見てまた拾い上げる事もできる。軽い気持ちで挑めばいい。


金子は一つ深呼吸をすると丁度懐中電灯で辺りを照らし始めていた三浦に視点を合わせる。
三浦が明後日の方に光を照らした瞬間、茂みから乱暴に体を表すと、
先程の石と同じ様に肥料の袋を三浦に向かって思い切り投げつけ、すぐさま身を潜めた。

突然の物音に反応した三浦が自分に向かって飛んでくる物体に向けて銃を構え、弾を放つ。
躊躇い無く放たれた弾が見事に肥料の袋を撃ちぬいた瞬間、辺りに閃光と熱風が走った。


【金子誠(8) 三浦大輔(17) G−2】




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