141.数字の意味 --------------------



藤本敦士はただただ森の中を必死に駆け抜けていた。
島から降りた時もこうして走った。まだ日が昇っている時に。
今のように大声は出さなかったが、それこそ命を懸けて。
死ぬのが恐かったから。誰かに殺されるのが嫌だったから必死に走り続けた。
そう。この島に下りてからずっと命懸けだ。何をするにも命が懸かっている。
不安と恐怖に駆られていた数時間前。だが今、藤本の目には強い輝きがあった。
(谷さん…大丈夫かな?)
走りながら探知機を覗き込む。画面に表示された10という数字は動く気配はない。
周りに近づくような点も無い事を確認すると、息を切らして近くの木に寄りかかった。

(…やっぱ、思いっきり体動かすのって気持ちええな。)
先程まで吹き付ける度に寒いと凍えた風が、今は妙に気持ち良い。
それと同時に齎される、誰かの為に動く事の心地よさ。
野球でも自分の為、仲間の為、応援してくれる人達の為に一生懸命動いていた。
そのままその場にへたり込むと空を見上げる。木の葉に遮られた夜空には微かに星が見えた。
(…俺、帰ったらもっと盗塁とか犠打とか練習しよ。)
帰ったら。ゲームを止めようとしている人がいると分かった今なら、その発想も自然と出来る。
今、自分ができる事はその人を手助けする事と同じ意志を持つ人間を探す事。
この島の中で助けを求めてる人間は間違いなくいるだろうし、
ゲームを止める為には人手が絶対に必要だろう。早く協力してくれる人を見つけなければ。

藤本は息の整えて改めて画面を覗く。画面は先程より少しだけ薄くなっていた。
点けっぱなしにするなと注意された探知機を点けっぱなしにして走ったのだから仕方が無い。
しかし予備の電池はポケットの中にある。まだ見続ける余裕は十分にある。
(…こうしてみると、結構、2〜3人で纏まってる所多いなぁ…。)
どういった理由で纏まっているかは分からない。共に行動しているのか、交戦中なのか。
先ほど逃げ出したエリアにも、まだ8と17が表示されていた。
(…俺を襲ったんはどっちや?三浦さんか、それとも金子さんか。)
何となく嫌な予感がして森の中を駆け巡る時もそっちの方にはあまり近づけなかった。
それが気になっていたが、こうしてみると二人ともその場所からあまり動いていない。
(数字入力できててよかったわ…。この二人には近づかん方がええな。)
数字として表示されているのは25、17、10、8、61。
後は全て赤い点として表示されている。藤本はウンザリしたように重い溜息をついた。
(…もう何でもええから、適当に数字つけといた方がいいかもしれんなぁ。)
ぼんやりと画面を見つめても、状況は何も変わらない。だが。

(………数字?)
思いついた提案が妙に頭に引っかかる。さらに深く思案すると、ある事に気づく。

島に散らばる赤い点。何が何でも誰であるか確認して背番号を記入する必要はないのでは?
適当に数字を入力して、後は様子をみるだけでもいい。
どの数字が数字を消していくか。どの数字がどの数字と別れたとかが分かる。
それが分かるだけでも十分、この探知機の利用価値はあるのではないだろうか?

投げやりな発案から生み出された可能性に藤本の目の輝きが増す。
試しに自分の数字にカーソルを合わせ、入力を押す。すると数字入力画面が表示された。
(上書き可能や…よし、どんどん入力していこ!)
震える指で一つ一つボタンを押して数字を記入していく。
(…うわ、2桁以上は記入できんようになっとるんや…。)
3桁ならすぐに見分けをつけられたのに。頭を掻きながら、それでも必死に画面に見入る。
(一番大きい数字は石井の61やから…それ以上の数字使えばええな。)
何か動きがあれば地図の裏にでも書きこんでおけば万が一忘れても確認できる。
(うわー、こんな事思いつくなんて、俺天才とちゃうか?)
他の選手ならもっと早く気づいたかもしれない事など藤本はまったく予想もしない。
夢中で一つ一つの赤い点にカーソルを合わせ、数字を入力していく。


全ての赤い点に適当な数字を打ち込んだ時、藤本は初めて気づいた。
先程まであった数字が一つ、消えていた事に。


【藤本敦士(25)  F−2】




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