140.悪魔の策略 --------------------



右手でマイオトロンのスイッチを押す度に、不気味な音が三浦の耳を刺激する。
この不気味な音に期待して藤本の背中に押し付けた瞬間、藤本は大声を上げて走り去った。
押し付けた時間が短すぎたのか、服の上からでは効果はないのか。
どちらにせよこの武器のせいで2兎を逃がす事となった。
急いで戻ると金子の姿は何処にもなかったのだ。
藤本の大声に逃げたと推測するのは容易だった。それだけあの大声は大きかった。
獲物を失った三浦はなかなか行動を起こす気になれず、その場に静かに座り込んでいた。

(……ったく、使えねぇ武器だな!)

三浦は苛立ちを隠しきれず、拳を地に叩きつける。
生えていた草が少し抉られて露になった地面を無表情で見下ろす。
獲物を逃がしたのはこれで2度目だ。やはり一人では効率が悪い。
(…早く相川見つけねぇと…。)
あいつの性格なら共に行動しようと言ってくるはずだ。
藤本の危機に即座に逃げ出す軽薄な金子とは違い、相川と自分の信頼は固い。
とことん利用してギリギリ人数を減らした後、殺せばいい。

(俺にはまだ武器があるんだよ。防具にもできる、最高の武器が。)

自分にはこんな状況でも利用できる奴がいる。これは銃にも勝る武器だろう。
だが、先に誰かに殺されたり自分がゲームに乗った事を知られたら消える武器だ。
だから早く見つけなければならない。ここでじっとしている訳にはいかない。
夜は危険だが、好機だ。睡眠は取った。後はこの時間帯、島中を歩き回って―――

ガサッ

突如茂みから発せられた音に思考を止め、無意識に銃に手を伸ばす。
石の様な小さな物ではない。何かもっと、大きな物が地面に落ちた音だ。
静寂の包まれていた空間に緊張感が漂いはじめる。

「………相川か?」

問いかけてるも反応は無い。だがそれは音の主が相川ではないという証明にはならない。
自分が安藤を殺した事を知っていたら。上原と松坂を狙撃する所を見ていたら。
どんな馬鹿でも。どんなに固い信頼関係で結ばれてようとも。うかつに反応できないはずだ。
(もし、見られていたとしたら…どう取り繕おうか…?)
今まで思いもしなかった可能性が三浦の頭をよぎり、悩ませる。
襲われたのだ、という理由は通用しない。自分の武器は遠距離の人間を狙って撃つものだ。
恐くて撃った、というのは自分には似合わないし不安を煽る事になる。

様々な理由を並べ立ててはみるが、どれも使えそうになかった。

(…理由位は、本気で話した方がいいかもしれねぇな。)
それで仲違いするようなら、それでいい。
どんな便利な武器でも自分の意志を曲げてまで手にするつもりはない。
どんな便利な武器よりも大事な、自分の意志を曲げるつもりはない。

(…仲間や家族には、上手く言っといてやるさ。)

悔しそうな顔をしながら、あいつの死に様は醜いものではなかった、とだけ。
そうしたら、皆泣くだろうか。泣きながらチームの優勝を目指すだろうか?願うだろうか?
(…誰かが死ぬ事でチームが優勝できるなら…俺は誰だって殺してやるよ。)
たとえ、共に国を背負い戦ってきた仲間だとしても。今一番信頼している捕手だったとしても。
うっすらと笑みを浮かべながら、三浦は改めて物音がした茂みの方を見据える。

(反応がないからって、無視する訳にはいかねぇよな…。)
自然に発せられた音では無い事は確かだ。明らかに誰かが発した音。
(相川だったら勿体ないが…撃つか。)
三浦は銃を構えてスコープを覗かずに3発、茂みに向かって放つ。
最低でも誰かの声か物音がするだろう。最悪、襲ってくる可能性を考えて身構える。
しかし三浦の予想ははずれた。茂みからは何の反応も返ってこない。
(おかしいな、確かに音はしたんだが…。)

三浦はゆっくりと足を進め、茂みに近づく。
誰もいないと分かっていながらも、マイオトロンを構えて、慎重に。
懐中電灯に照らされた場所以外はまともに見えない中、静かに茂みを掻き分ける。
そして、音の発生した場所で三浦の視界に入ってきたのは―――横になった赤茶色の植木鉢。


その瞬間、三浦の後頭部を衝撃が襲った。


【三浦大輔(17)  G−2】




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