14.1号と2号 --------------------



神宮球場クラブハウスのロッカーで、61番石井弘寿は一枚の手紙を見つめ悩んでいた。
家を出る時に覗いた郵便受けに入っていた、自分宛の手紙。それには「2004年五輪会のご案内」と記されていた。
アテネ五輪会の野球チームを対象にしたレセプションが行われるという。
あの、アテネで共に戦った仲間達にまた会えるのは嬉しい。
だが、銅メダルという結果に終わってしまった事を思うと、やはり気が進まない。

「『五輪会のお知らせ』?」
「うわっ!!」
突然耳元でした声に驚き、飛び退くようにして振り返ると、
そこにはそんな石井の反応に笑いを堪え切れない様子の、五十嵐亮太(Ys53)の姿があった。
「ゴリさん驚き過ぎー。」
笑いながら言う五十嵐に、石井はバツが悪そうに手紙をポケットに押し込む。
「お前、脅かすなよ…つうか、何勝手に見てんだよ。」
「中々練習こないから呼びに来たんですけど、呼んでも気付かないし。」
そう言われて周りを見ると、既にロッカールームに残っているのは自分だけになっていた。
「…何かヤバい手紙なんですか?それ。」
そんな石井を不審に思った五十嵐が、訝しげに尋ねてくる。
「別に…ただ、アテネ五輪の野球チームで集まりがあるらしい。」
「何だ、楽しそうじゃないですか。」
途端に笑顔になる五十嵐に、石井は思わず苦笑を漏らす。

楽しかった。確かに楽しかった。
各チームから選ばれた素晴しい選手達とチームを組んで、真剣勝負で世界の頂点を目指す。
押し潰されそうなプレッシャーと緊張の中にも、プレイヤーとして最高の舞台に立っている嬉しさ楽しさは常に感じていた。
だが、勝利を逃した時のショックはその分−−いや、それ以上に大きかった。

その時の絶望感が再び頭を過り、振り払うように慌てて頭を振るう。
石井のそんな反応を不思議そうに見ていた五十嵐が、ふと床の上に封筒が落ちているのを見つけた。
先刻、石井が驚いた拍子に落としたものだ。
拾い上げ、石井に渡す。
ポケットの手紙を取り出し封筒に戻そうとした石井は、封筒の中にもう一枚の紙が入っているのに気付き、それを取り出した。

「じゃあ、先に練習始めてますからね。」
そう言って出て行った五十嵐の言葉も、もう石井の耳には入っていなかった。
石井の頭は、再び手紙の事しか考えられなくなっていた。

[このアテネ五輪会は今大会の野球日本代表に選ばれた選手全員が 該当となり強制参加になります。
尚、欠席者には重大な罰則が科せられます。]




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