130.言うか言わぬか --------------------



「俺の銃は次元の銃だったからね。だからまぁルパンが必要だって思ったんだ。
そしたらお前と一悶着あった後、助けに来た宮本さんの銃見たらワルサーP38でさ…」
なぜ宮本と一緒に行動しようと決めたのか、という和田の質問に高橋は答えた。
三つの懐中電灯の光は、暗い灯台までの道を照らす。

「なるほど…宮本さんもそう思ったんですか?」
尋ねる和田に、宮本は軽く肩を竦める。
「俺はルパンはよう分からんしね。単純に由伸とならやってけると思ったまでや。」
「……」
先程から何となく上の空といった感じで、
パラパラとワルサーP38ルパンモデルの説明書を読んで歩く宮本に、高橋はじっと視線を送る。
「…俺はこの銃を手にした時から信じてたから。俺にとってのルパンと絶対に会えるって。
それが宮本さんだった時は嬉しかった…この人だったんだって嬉しかった。」
「由伸…」
顔をあげる宮本に、高橋は穏やかに、それでいて強い瞳でつぶやく。
「だから宮本さん、あんたが今、何を考えて、何を疑い悩んでも…俺はあんたの相棒です。」
「お前…」
宮本は驚愕で目を見開く。
高橋は気がついていた…カードが示す偶然性による己の考えたくもないような疑惑に、悩みに気がついていた。
「敵わんなぁ…お前、気がついてたんか。さすがは俺の相棒やな。」
バツが悪そうに、それでいて頼もしげに呟く宮本。
(カードの偶然性が俺の取り越し苦労でも、本当に仕組まれた事だったとしても…)
どちらでも共に戦えばいいだけの話だった。宮本は苦笑しながら銃の取説を閉じる。
高橋はそんな宮本に安堵するように笑い返した。
「そりゃどうも。へえ、この銃って本当にワルサーP38ルパン愛用モデルなんすね。」
これでもう大丈夫だろうという安心から、軽い口調に変わった高橋は、宮本が閉じた取説を読み始める。
和田も興味深げに覗き込んだ。

「…これからどないしようかね。俺は…皆を助けたい。皆で生きて帰るんや。」
このまま雑談していたいところだがそうもいかない。宮本は高橋と和田を交互に見遣る。
「…けど、どうやって助かるかなんですよ。」
忌忌しそうに首輪に触る高橋に、宮本は頷いた。
「そうやね…まずこの首輪をなんとかするとか…」
「電子式の首輪だからまぁ…どっかしらのPCで管理されてんでしょうけどね。」
唸る高橋の横、和田はため息をつく。
「宮本さんも、由伸さんもパソコンに詳しいんですか?俺はごく普通の知識しかないですよ。」
「ハードは結構詳しいけど、ハッキングとかそんな知識はまったく無いぜ。」
「…俺等は野球選手やで?そんなん無理に決まってるわ。」
「そんな事よりメールで助け求めた方が良くないですか?」
「ていうかどうやってメールやれっつーんだよ。助け待った方がいいんじゃね?
俺等が行方不明になってる事に疑問持つ奴等が出てくる事を願って生き延びる、と。
まあ希望的観測、他力本願も良いとこだけどね。」
高橋はため息をつく。
「そうですよねぇ…俺等が行方不明な事にいい加減、気がつく人も居ますよね。」
和田もそんな希望的観測をつぶやくが、ふいに遠くに見えた人影に足を止める。
灯台までの道と、集落からの道がぶつかりあう三路地から見える橋を渡りきった人影…
それは黒く映る二つの影から、何者かが二人、こちらに向かってきているのが分かる。
(誰だ…ここからじゃ良く分からないけど二人居る…)
敵か味方か何者か。宮本も高橋も数歩先に歩いているせいか気がついていない様子だ。
(ど、どうしよう…)
本当なら宮本と高橋に誰か近づいていると報告すればいいのだが、
それを躊躇する理由があった。
(誰か居る、と言ったら高橋さんも宮本さんも、近寄るに決まってる…)
あの二つの人影が善人ならばいいが、悪人だったら…
安藤や村松を殺した何者か、自分を殺そうとした城島のような者だったら迂闊に近づいては危ない。
(二人共、俺を信じてくれたように信じきって近寄っちゃうかもしれない…)
そして危険な目に…下手すれば最悪の事態になるかもしれない。
(だって皆で生きて帰るなんて言ってるんだから…)
高橋は自分に殺されそうになったが、それでも信じようとする人であるし、
宮本は殺されそうになった経験が無いせいもあるが、度胸がある人だ。
(どうすればいいんだ…)
誰かが近づいてると報告し、人影二人が善人である事に賭けるか、
見てみぬフリをし、起こりえるかもしれない危険を回避すべきか。

高橋と宮本に言うべきか、言わないべきか。
和田は再び橋のふもとに見える人影に視線を送る。

時刻はもうすぐ午前0時になろうとしていた。

【宮本慎也(6) 和田毅(21) 高橋由伸(24) B-2】




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