123.偶然の裏の可能性 --------------------



にしても凄い偶然っちゅうか何と言うか。
宮本は後ろについて歩く二人を見ながら、この島に入ってから更に広くなったであろう額を掻いた。
21番と24番、和田と高橋はのほほんと会話をしていた。
福岡ダイエー、違ったソフトバンクホークスの若き先発の柱、和田毅。
誰もが認める巧打堅守のチームの主砲、読売ジャイアンツ高橋由伸。
実力もさることながら、人気も高い二人に出会えたのは俺の運か人望か。・・・・・運やな。

「それにしても寒いですね。」
「冬だしなぁ・・・。」

頭の中で漫才を繰り広げつつ、まるで子供を見るような目つきで二人を見つめていると、
それに気付いた高橋が不思議そうに小首をかしげていた。
別に何もないよ、と返し、宮本は再び地図とコンパスを見比べる。
一瞬沈黙が流れたが、高橋と和田はまたちょっとした話を始めていた。
地図とコンパスがその通りならもう少し歩けば灯台に繋がる道に出ることが分かり、宮本は地図をホルダーにしまった。

そして数歩歩いたところでふと思い出しポケットの中に手を突っ込む。取り出したのはあのカード。
スペードのエース―――すべてはこのカードを選んだ瞬間に始まった。
あの時はまだこんな事になるとは微塵とも思わず、ただ適当に24の封筒から一つを選んだに過ぎなかった。
その選択が適切なものだったのかどうかはまだ分からない。が、間違ってはいないはずだ。
未来の選手達のために戦う奴に出会えた、不器用でも人を信じようとする奴に出会えた。それが間違いではないことを証明している。
俺もなかなか詩人やなと半分笑いつつ、カードをポケットにしまいなおした。

「でも無人島なのに灯台あるんですね。てっきり人がいなくなったら取り壊すんだと思ってましたけど。」
「まぁ取り壊すにも費用が要るからな。しかも灯台って海のところにあるから取り壊しにくいじゃねぇの?」
「そうですよね。」

二人の会話が少し途切れたところで後ろを向きながら、「さてと」と切り出しす。
自分の行動に気付いた二人は、懐中電灯があるとはいえほの暗い闇の中で真っ直ぐ自分の顔を見る。
その視線に宮本は改めて気持ちを入れ直した。

「もう少し歩いたら道出るから。寒さしのぐためにもとりあえず灯台に行こか。」
「分かりました。」
「あ、それと何やけどお前らカード何?」

高橋と和田が突然立ち止まり、それにつられて宮本も不思議に思いつつ立ち止まる。
宮本にとってはついでのようにした質問だったが二人には思いもしない質問だったのか、
高橋と和田はきょとんとした表情になっていた。
その表情のまま、二人はそれぞれカードを取り出した。
一足早く取り出した高橋が見せたものに、今度は宮本が驚く番だった。

「俺はスペードの3っすけど。」

何やお前もスペードなんか、と宮本は返しながら仕舞いなおしたカードをもう一度取り出す。
すると和田は驚いた表情のまま、カードを高橋と宮本に差し出すように見せた。
そのカードはスペードの4。思わず三人で顔を見合わせる。

「・・・・もしかして俺らスペードで出来とん?」
「凄い偶然ですね。」

偶然。和田のふと一言が宮本の頭に貼り付いた。
偶然か、そういえば俺も高橋も和田も武器は銃だな。よほど運がいいんやな。

「これで2がいれば、ストレートなのになぁ。」
「アホ、5もおらなストレートにならんっちゅうの。あれ、フラッシュやったかな?」
「誰がスペードの2と5引いたんですかねぇ。」

和やかな雰囲気の中、再び歩き出す。
―――運がええな、ホンマ。おかしいぐらいに・・・・。
背後で交わされているトランプの話を聞きつつ、宮本は髪を切ったすぐ後のように微妙な違和感を感じていた。
微妙な違和感、それはスペードのエース・3・4の武器が銃である『偶然』。
この島に来るもっと前、鞄が渡されたのは確か―――星野によるくじ引き。
確かに偶然に偶然が重なって、銃の入った鞄がこんな順番で決められたのかも知れない。
他にも銃の入った鞄があるとしたらその確率は高い。

しかし、何か出来過ぎてはいないか?
多分これにはまた名前も呼びたくない人が関わっている。あの人の自チームへのこだわりようは半端じゃない。
特にここにいる高橋由伸という選手にはもう格が違うというほどこだわっているのは噂で聞いた。
それに加え、和田毅には星野仙一がこだわるはずだ。和田の将来性を高く買っている話を解説で聞いたことがある。
宮本は頭痛持ちの人がそれをやるように軽くこめかみを押さえた。
もしかしたらではあるが、あくまで可能性の域から出ないが、仮説に過ぎない話だが、もしそうだとしたら―――

「・・・・・ようやるね、向こうさんも。」

思わず呟く。慌ててチラリと二人を見るが、和やかな雰囲気を保ったままなのを見て胸を撫で下ろす。
そんなことはないと、それよりむしろ今自分たちがいる状況こそあってはならないのだが、それでも宮本は考えた。


―――もし、命の順位付けがされてあったら?
最初から道筋が決めてられているのと一緒だというなら?
最初から、生き残れる選手が一人決められているとしたら―――?


(そんな権利、つか人の命を他人が司る権利なんてもん自体がそもそも誰にも無いっちゅうねん。)
ふつふつと宮本の中に怒りが生まれる。
こうなったら、意地でも生き残ってる全員を元の居場所に戻す。
それが自分の『キャプテン』としての最後の仕事だと宮本は感づいた。

「あ、なんか道っぽいの見えてきましたね。」

和田がそう言うのが宮本の耳に入ると同じくして、懐中電灯の光が森の向こう側へと抜けた。

「灯台の中寒くないっすかねぇ。」
「まぁ海に居るよりかはマシやろ。」
「誰も居ないといいですね・・・・。」

そんな会話を交わしながら、宮本はカードがしまってあるのとは反対のポケットに入れてあった名簿を取り出した。
握り締めてくしゃくしゃになったそれには中村・安藤・村松の名前の上に棒線が引いてある。
その名簿の一番下に宮本は『みんなを生きて帰らせる』と書いて、再びポケットに戻した。

「じゃ、灯台に着いてちょっと休憩してからこれからについて話し合おな。」
「ラジャ。」
「分かりました。」
「・・・・・絶対に、生きてみんなで帰るんや。」

最後の台詞は自分だけに聞こえるように呟く。
絶対に、そう絶対に、負けられない。
21人の生命と将来の選手達の為にも、負けられない。

ふと見上げた夜空に雲の隙間から煌々と丸い月が輝いているのが見えた。


【宮本慎也(6) 和田毅(21) 高橋由伸(24)  C−2】




戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送