118.面倒嫌いは何思う --------------------



月明の下、悠然と歩くのは城島であった。
「面倒だなぁ…」
もはやお決まり文句となった言葉をつぶやきながらただ歩く。
もう少しあの場所に居ても良かったのだが、
自分が殺そうとした和田はやはり生きており、お節介な二人組が助けただけでなく、
仲間にしたのを双眼鏡から一部始終眺めてしまったゆえ、動くしかなかった。

(あの二人が銃さえ持ってなきゃ、仕掛けてみても良かったんだけど…)
由伸と宮本は、既に自分が和田を殺そうとした事くらい知ってるだろう。
そしてあいつはとんでもない奴だ、と認識したであろう。
そういった者達の近くに潜伏するのは危険である。
「…どこ行こうかな。ここも直に禁止エリアになるし…ああ、ここもだ。何だよ、のんびり潜伏できそうな場所ばっかだな…」
面倒くさい。誰を殺したいわけでもない。ただ自分の事しか考えないだけだ。
だが、自分の事のみを考えるという事は結果、面倒な事…誰かを殺すことだ。
「ったく…自分の事だけ考える事さえ、手間ひまかけなきゃならないのか?」
どのみち面倒くさい思いをしなくてはならない…城島はふいにニヤリと笑う。

「そろそろ…頃合いか?」
本当に面倒だ。だが、これからは面倒だ、面倒だと言いながらも面倒くさい事をしなきゃならないだろう。
「…集落、か。」
そこならば何人か居るだろう。面倒くさい事はさっさと終わらせるに限る。
城島はハッキリと目的を定めるように、集落に向け足を進めた。
(集落の…どこにする?絶対に誰かしら居る場所は…)
無駄足を踏むのはごめんである。確実に成果というものを得たい。
だから絶対に誰かしら居そうな場所…城島は顔をあげる。
「…学校…だな。」
なじみのある場所…懐かしい光景のあの場所…グラウンド。
死ぬならグラウンドで死にたい、と思う選手はきっといる。
「ここに来る前の俺だったら…そう思っただろうからな。」
もう遠い昔の思い出としか思い出せないここへ来る前の自分。
誇りと責任感で胸を張って野球をやっていた自分。
だがもう既にそれは遠い昔の思い出でしかなかった。

(和田の奴、ああみえて結構運良い奴なんだな。)
あの時の双眼鏡の光景を思い出す。
膝に顔をうずめて泣きじゃくる和田。優しく声をかける由伸。
苦笑して見守る宮本…煌々と照らされた月明かりとはいえ夜の森は見通しが悪く、
クッキリと見えたわけでもないがある程度はどういう状況か把握できたし、想像もできる。
(武器も持ってない、死にかけた奴を仲間にできちまうんだからあの二人はいいねぇ、余裕があって。)
半分本気で、半分馬鹿にするように城島は苦笑した。
「俺はこういう状況で余裕綽々になるほど馬鹿でもないし、自信家でもないからなぁ…」
頭を掻きながら城島はつぶやく。
「だから面倒だけどま、ちっとは動かねぇとな。」
グラウンドには誰かしら居る。そういう確信があった。
そこで殺し合う事となったとしても、仕留められれば良し、
殺されたらそれまで。それだけの事であった。

「…グラウンド、か。」
グラウンドの上の自分は様々なものを味わってきた。
誇り、責任感、感動、怒り、屈辱、悲しみ…
だがそれも遠い昔の話。
こんなにも無感覚でグラウンドに向かうのは生まれて初めてだろう。
そんな自分にもはや何を思うこともなく、ただ歩く。
今の城島にとってそれはどうでもいい事でしかなかった。

【城島健司(9)H-4に向けて移動中】




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