117.うそつきの集まり --------------------



減るどころか増えてる!?んなアホな!
藤本は頭を抱えた、そして首輪探知機の電源を切るとバックの中に投げ入れた。

「その反応だと変わらずか、他のエリアから入ってきてるか。だな。」

木の根を枕に寝転がっていた金子がポツリと呟く。
悔しいが、金子の予想は一致していた。
診療所と学校のあるエリアに計6つの赤い点があった。
数時間前に見たときはまだ2、3個しかなかったはず。誰の目から見ても明らかに増えている。

「ならまだ動けないな。」
「・・・・・・そうっすね。」

そう返答する他無かった。
それを聞くと金子は藤本に背を向けるように寝返りを打つ。藤本は溜息を一つつき空を見上げる。
見上げた空は雲に覆われているが、時折星や月がその姿を現す。
冬独特の澄んだ北風に思わず身を震わせる。

何でこないなことになったんやろ。
顎を空に向かって上げた状態のまま、藤本は考えた。
日本代表選出したん長嶋監督やん、何で俺らが命賭けなあかんねん。おかしいやん。
それに大体金とれんかったってだけでこんなことになるねん。マジふざけてるし、イカれてるやろ。
こんなん正気の沙汰ちゃうやん。しかもこんなことに乗っとる人間居るし。ほんとに人の命を何やと思うてんのや!?
あー段々腹立ってきた。

藤本が視線を地面に戻す。
その一連の流れによる藤本の表情の変化を見ながら、金子はパンをかじっていた。

―――百面相だな、まるで。
さっきは泣いたかと思えば、今は怒りに燃えているような表情。
羨ましい、金子はそう考えると同時に、面倒だとも思った。

内野の守備は一瞬が総てを制する、勝ちも負けも選手の一生も。
一瞬躊躇すれば何もかもが崩れ去るような世界に生きてきた。それは藤本だって一緒のはずだ、内野手なんだから。
だからその一瞬を掴む為に無駄なものは省かないといけないことぐらい分かってるはずだ。
無駄なもの。一歩多いステップ、イレギュラーバウンドへの対応の遅れ、上げればきりが無い。
でも一番無駄なものは『引きずる気持ち』だろうと金子は考えていた。
打席で打てなかった、エラーをした、いろんなものを引きずったまま守備につけば一瞬への対応が遅れる。
そしてまた対応が遅れ、エラーになり、悪循環。

『難しいな。』

藤本に聞こえないように心の中で呟く。
自分のように引きずる気持ちを無くそうとすれば藤本のような存在には、冷たいと言われる。
藤本のように感情を表に出そうとすれば自分のような考えの人間は、うっとうしいと思う。
同じ人間なのに何故こうまで違うんだろうな。
何も明かりのない暗闇の世界で金子は目を閉じた。

ガサガサッ
金子が目を閉じた数秒後、藤本が眠りに入りかけた数秒前に突然その音は耳に飛び込んだ。
風とは違う葉の擦れあう音が段々藤本と金子のいる茂みに近付いている。

「金子さん・・・・!?」
「しっ。」

金子は藤本に向かって人差し指を立てて、子供にするように目配せをした。
誰だ、敵か、味方か。
最早逃げ出すことも出来ず、
金子と藤本はそれぞれ先のとがった細長い石と腕の骨ほどの太さの木の枝を持ち、音のする方を睨んでいた。
幸い二人とも夜の闇には目を慣らせていた、一瞬だけでも注意を他にひきつけられたら・・・・。
何でこないなとき来んねん!、藤本はそう思っていた。一瞬だ、金子は神経を尖らせていた。
ガサリと目の前の茂みが動く、と同時に金子と藤本は久々の光を目にし、人間としての反射で身をすくめてしまった。
しまった!、これだけは二人の考えが一致する。

「・・・・お前ら、何やってんの?」

そして何度か瞬きをして、金子が見たのは。



「あのさ、突然で悪いんだけど相川見てない?」

背番号17、三浦大輔の姿だった。


【金子誠(8) 藤本敦士(25) 三浦大輔(17)  G−2】




戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送