116.闇に笑う --------------------



「上原さん、上原さーん。時間ですってば!」
「んぁ?」
揺り起こされた上原浩治は、不機嫌に相手を睨んだ。
目の前には松坂大輔の見慣れたふくれ顔。
「……」
「もう3時間経ちましたよ、ほんっと寝起きが悪いんだから」
松坂はやれやれというように自分の帽子を取って、ふとんの脇に置いた。
「ほら起きて、起きて。俺が寝る番ですって」
「……ロッテの連中は?」
「もうとっくに交代してますよ。上原さんが全然起きないから、俺の睡眠時間10分くらい損しちゃいましたよ」
「嘘つけ。そんな寝起き悪ないわ」
「あはは、バレましたー?」
松坂は頭の位置に鞄を置くとその上にタオルをしいて、ぽんぽんと叩いている。
どうやら枕の替わりにするつもりらしい。
「そんなん枕にしたら頭痛くならへん?」
「だってここの枕低いんですもん。俺、枕は高い方が好き」
「それ、手榴弾入ってるんやろ?」
「ピンさえ抜かなきゃ爆発しないから大丈夫ですよ」
「そうゆう問題ちゃうやろ。ほんまノーテンキなやっちゃ」
手榴弾の入った鞄を平然と枕にできる度胸は、松坂らしいとえいばらしいが。
「だいたいなー、こんなときに枕の高さとか気にしてるのお前くらいやで」

それとも、用心しとるつもりか?
鞄の中の手榴弾を頂くつもりだった事を見抜かれていたのだろうか。
や、こいつに限ってそんなことないか。天然やもんな。

どっちにしろ、ここでは手榴弾は使えない。
松坂の装備は殺してからゆっくり頂戴すればいい。

上原が黙ったことを返事を待っていると思ったのか、ふとんにもぐりこんだ松坂はぼそぼそと答えた。
「こんなときだからこそ、俺、ふだんしてることとか、思ってることとか、忘れたくないんです。
 それ忘れたら、本当にここが戦場になっちゃう気がして」
「……とっくに戦場やけどな。銃声に手榴弾まで飛び交って、足りないのは戦車くらいや」
上原は肩をすくめた。
ふとんに入った松坂の背中を冷たく見下ろす。
いちいち気に障る松坂の余裕の態度も、あと少し。どうせあと少しの間だけだ。
せいぜい能天気な夢を見てればいい。

上原は、つとめて優しい声を出した。
「まあ、好きにしたらええわ。ほな、おやすみ」
そのまま永眠させたるけどな。
「はい、おやすみなさーい」

無邪気な松坂の返事を背中に部屋を出る。
顔が、自然と微笑んでしまう。
自分の内心に気づかない松坂の馬鹿さ加減にはおかしくて仕方がない。

本当に余裕があるのはどっちか、見せたるわ。

上原は寝る前にふとんの中で綿密な殺害計画を立てていた。
怪我人がいるとはいえ相手は三人、しかも球界でトップクラスの投手陣と来れば慎重な計画が必要だった。
三人を一気に葬れる大チャンスを逃すわけにはいかないのだ。
疲れがたまっていたのか、途中で睡魔に襲われて本格的に寝入ってしまったのは不覚だったが、
シミュレーションは完璧に頭に残っている。

まずは鞄から鎌を取り出し、それを腰の後ろのベルトに挟む。
見張りをしているはずの清水直行と、寝ているはずの小林雅英。
そして、今しがた眠りについたばかりの松坂大輔。
三人のこれからの運命を考えると、ますます笑いが止まらなくなりそうだった。



【清水直行(11) 松坂大輔(18) 上原浩治(19) 小林雅英(30) G−4】




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