09.溜息 --------------------



もう何度目とも分からない溜息を一つ吐く。
革張りのソファーに体を埋め、天井を仰いだ。
テレビからは興奮したアナウンサーの声が響いている。
右手の甲を額に当てるとやけに熱い気がするが、多分気のせい。
ちらりとテーブルを見ると、その上には封を切られ裏返された封筒がある。

「五輪会か・・・・・。」

そう言って、岩隈(Bu21)はもう一度その白い封筒に手を伸ばした。
あんまり出たくない。
岩隈はそう思っていた。
手で出来るだけ丁寧に開けた口から二枚の紙を取り出す。
もう何度も見返した真っ白の紙に印字された文字。
『2004年五輪会』の文字。

あの試合。
勝ちは出来たけど、自分の投球が出来なかった。
あまりにも自分が不甲斐なくて。


「(会いにくいな・・・・・・)」

座りなおして、もう一度読み直す。
五輪会とはどんなものか、どこでいつやるのか、どんな事を用意すればいいのか。
そして、もう一枚の紙と入れ替えた。
そこに躍る文字が岩隈の心を重くしていた。


[このアテネ五輪会は今大会の野球日本代表に選ばれた選手全員が該当となり強制参加になります。
尚、欠席者には重大な罰則が科せられます。]

はっきり言っておかしいと思うんだけどな。
『重大な罰則』って何かよく分からないし、それに何でそもそも野球だけなんだろう。
休めるものなら、休みたいよ・・・・・。
ぼんやりとそう考えながら岩隈は正面にかけてある壁時計を見た。

「どっちにしろ出なくちゃいけないのかな・・・・・。」

そう呟くと岩隈はまた溜息をついた。
今の状況について、そしてこれからの事について頭を痛めながら。
つけっ放しのテレビはいつしか二人の男の話になっていた。




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