05.マリンスタジアム --------------------
11番清水直行は、千葉マリンスタジアムのブルペンにいた。
チームは3位と4位の間を行ったりきたりしている。
今年からパリーグで導入されたプレーオフのため、この時期だとあるはずの、いわゆる『消化試合』がほとんどない。
その中で中五日ローテーションを組むといわれた清水は、横目で今日の試合の行方を追いながらもくもくと投げている。
「ナオ、ちょっといいか?」
不意に声をかけられ、清水は投球モーションを中止し振り返った。声の主は、30番小林雅英だった。
「…なんですか?」
モニターには、今季で消滅が決まっている近鉄バッファローズの磯部が打席に立っている姿が映っている。
「…五輪会って知ってるか?」
「ああ、ウチにも来ましたよ。その案内。」
清水はブルペンにあるベンチに汗をふきつつ座った。スポーツドリンクを一口含み、息をつく。
「正直いうと、行くのどうしようかと思ってる。」
隣に座った小林の言葉に、清水の脳裏にアテネでの情景がはっきりと思い出された。
ぎらぎら照りつける明るい太陽。
固く乾いた土と、風が吹くと舞う土ぼこり。
内野に設置されたスタンドで飛びかうどこかの国の言葉。
相手はみな、日本語を話さない外国人ばかり。
事前に手に入れていた情報と明らかに違う相手チーム。
オレはそこのマウンドにたち、背に日の丸を負って、一敗も許されないような異様な雰囲気の中で投げていた。
「オレ、…打たれたんスよねぇ。」
清水はため息混じりに言った。「でも、アテネには行ってよかったと思ってますよ。」
「あんな経験、めったにできないしな。」
小林はモニターを見上げた。
モニターの中では、小林宏之が奮闘しているさまが映っている。
点差もあるし、今日は勝ちゲームだろう。
「まあ、せっかくまた勝ち負け関係なくあのメンバーと会えるし、行ってもいいんじゃないですか」
「そうだな」
清水の言葉に、小林はうなずく。「しかし、その…なんだ。『消化試合がない』というのも、結構大変だな」
「正直日本ハム、ぜんぜん負けませんね」
二人のエースは、現実に目の前にあって、手を伸ばせば届くかもしれないプレーオフ出場権を思い、ため息をついた。
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