00.狂いだす歯車 --------------------



For the Flag―
2004年アテネ五輪。1984年ロサンゼルス五輪から公式種目となった野球。
国民的な人気を誇る日本のプロ野球は、アメリカ・メジャーリーグにこそ劣るものの、
その実力は世界において高いレベルを保持していた。
しかし毎回プロとアマチュアを交えての国際試合は、厚い世界の壁に阻まれ
後一歩のところでいつも優勝を逃していた。
選出メンバーすべてをプロで固めた6回目の五輪。惜しくも優勝は逃したが、
それでも3位という好成績に留まり、彼らは24個のメダルを手にした。
アマチュアのためのものといわれる五輪においてプロ選手のみを用いた采配。
メディアは当然金メダルを取るものと食っていた。国民の期待も当然大きかった。
 
代償は、最悪の形となって払われることとなる。
 
「どういうことだね、中畑くん」
中畑清―志半ばにして病に倒れた長嶋茂雄監督に代わり全日本の采配を行った男は、暗がりの中、
数人の老人に向かい合う形で椅子に座っていた。
「だから私はオリンピックなど嫌いなんだ。あんなアマチュアの祭りに金を使う理由が全く分からん」
「…申し訳ありません。私の力が及ばないばかりに」
厚い眼鏡をかけた老人に中畑は頭を下げた。
「期待はしていなかったが…まさかあそこまで酷いものとは、落ちたものだな」
「あれでは選手たちの大事なペナントの後半戦への影響が多すぎる。だから私は忠告していたのに」
老人たちから非難の声が飛ぶ。その中心に座る男は不服そうに葉巻を加えていたが、
「まぁいい。これで国民のプロ野球への関心も時期に廃れよう」
ふぅ、と満足そうに煙を吐く。
「国のために闘った戦士たちを、金の名において排除する。実に面白い制度ではないか。その―BRとやらは」

高価そうな牛革張りの椅子に腰を落とした渡辺恒雄前読売巨人軍オーナーは、気だるそうな瞳を細めて笑う。
「代表メンバーはチームの主力…当然年棒のいい連中ばかりだ。邪魔者を始末してしまえば
各球団の経営は格段に良くなる。責任をとらせる意味でも、一石二鳥だ」
「か、考え直してください。それでは国を代表して戦った選手たちに対しあまりにも」
「口答えできる立場かね」
 即座に切り返され、次に出すはずの言葉を失う。
「まぁそう言うな。彼にはしてもらう仕事が山のようにある。別に断ってもかまわんが、その時は文字通り君の首が飛ぶことになるがな」
苦虫を噛み潰したような中畑の顔に、脂汗が浮かぶ。
「ふん、所詮君に選択肢はあるまい…。これより計画を実行に移そうと思う、異議はないな」
「異議ありません」
「こちらも、異議ありません」
一人蚊帳の外に放り出された中畑を尻目に、老人は書類をまとめ話を進めていく。
「マスコミに圧力をかけろ。テレビ局、新聞、インターネット、他すべての情報媒体、各メディアに報道管制を敷け。
我々の動きを読まれるな」
「これでプロ野球の未来も明るくなるというものだな。ははははは」
中畑を嘲るように老人は下卑た笑い声を上げる。中畑は歯を食いしばり、膝に置いた両腕を強く握り締めた。
「(皆…すまない。どうか、私を…私を許してくれ)」




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